第8話

 僕は護衛に連れられ、海沿いにひっそりとたたずむ東の牢屋に入れられた。


 村長の信念は揺らがぬものだった。村を愛し、村そのものを守ろうとしていた。言葉を返すことが出来なかった。


 僕には彼を突き動かす程の力を持ち合わせてない。とんでもない過ちを犯してしまった。完全に誤算だ。彼は全てをこの村に賭けている。何もかもを捧げた男に敵う訳がなかった。



 残された道はあと一つ、この牢屋から抜け出し、彼女がゴンドラで運び出される前に助け出すこと。


 太陽はまだ沈んじゃいない。汐音を救うことは、まだできる。幸い、看守は居らず村人は祭りの方に全員割かれているようだ。


 だが、牢屋を塞ぐ分厚い岩壁がんぺきを動かさなければ、この牢屋から抜け出すことは出来ない。この牢屋は岩を削り作られているから格子こうし窓を突き破るのは困難に近い。日没前にこの牢屋から出ることが出来なければ、何もかもが終わったも同然だ。


 荒々しい岩壁に指を引っ掛け、死に物狂いに力を込める。壁は動いたが、指が入る隙間もないほどの距離しか動かなかった。


 僕は再度、腕に力を込め足を踏ん張る。血管が破けそうになるほど、体全身に浮き出てきた。奥歯にとてつもない負荷の圧力が掛かる。


 僕は気が付くと、地面に倒れていた。酸素が体に循環しきらなくなってしまったらしい。力が入らない。視野にもやがかかったようにかすむ。

 もう時間はないっていうのに。冷静に物事を考えていれば、こんな事態に陥ってなかったはずなのに。


 僕はまた、信頼できる人を失おうとしている。

 僕の人生は後悔ばかりだ。後にも先にも、きっと僕の頭には後悔という言葉が渦巻いている。


 もし、この村に生まれていなかったら、後悔ばかりの人生ではなかったのだろうか。辛いことから逃げてばかりで。同じことの繰り返し。


 どうせ僕という人間は、何も出来ない。幸せになろうとすれば、それは悪夢のような出来事に変貌してしまうし、望みも願いも何もかもが上手くいかないようになっているのにも関わらず、僕は懲りずに彼と彼女と友人になろうと考えた。


 結果このザマだ。幸せになろうと考えることをしてしまったせいで、この世界から居なくなってしまった。彼女達を巻き込んだばかりに、彼女達の幸福を奪い、地獄に招いて。


 そして自分だけが不幸だと思い込み、あまりに身勝手だ。

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