第6話

 僕は過去にすがりすぎなのかもしれない。


 もう少し前を向いて生きたらきっと楽なのだろうが、過去に失った物の喪失感を僕は、絶対に忘れるわけにはいかない。


 それを満たしてくれた人に出会ったこと。僕を見捨てないでいてくれたこと。


 失ったものを大切にしていた時の記憶は愛おしかった。感情は記憶になる。激情が身を支配していても、全て記憶になる。記憶は化石に。


 でもそれは本当に起こったことだ。薄らいだとしてもそれだけは変わらない。

 彼女は僕を探し出してくれた。手を差し伸べてくれた。何もかもを喪ったこの僕に、優しく抱擁をしてくれた。心を満たしてくれたんだ。


 今度は僕の番。命を投げだしても惜しくない。彼女はそんな存在なんだ。もう誰も失うわけにはいかない。

 

 太陽はもう頭上まで昇っていた。揺らぐ意思を繋ぎ止め、自分の足で歩き出さなければならない。もう僕には迷っている時間は無いのだから。

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