1-45 我らが故郷クロウジア

 城へ攻め込むにあたって、僕たちは大きく三部隊に分かれることになった。

 まず最初はゲベルの隣にいた堅物男・ストルツァ率いる元国王軍たち第一部隊。彼らは少数精鋭として、正門から真っ直ぐ城の中に攻め込んでいく。そしてその後ろから、武装した市民たち約二千人の第二部隊が続く。

 敵の兵士はおよそ四百。数では大きく勝っているものの、こちらはあくまでも寄せ集めの素人兵ばかり。まともに戦えば、おそらく勝ち目はない。

「だが、勝機はある」

 ストルツァは最初に上手く切り込んで序盤を有利に進めることができれば、勝機はあると語った。

 基本的に敵は外部から金で集められた傭兵たちで、元々この国にいた兵士はほとんどいない。ほとんどがクーデターで殺されたか、国外に逃亡してしまっていた。残ったのはここにいるストルツァたちと、上手くジルヴェ側に取り入った一部の者だけだった。

「傭兵というのは、所詮金のために戦う者たちだ。我々のように誇りを持って戦う者とは根本的に異なる。彼らは自分たちに不利な状況とわかれば、すぐに戦場を捨てて逃げ去ってしまう」

 つまり、相手に勝てないと思わせることができれば、敵は諦めた者から敗走していく。その連鎖を引き起こすことができれば、戦力差をひっくり返して勝つことができるという算段だった。

 一方、僕たちは第三部隊として、ジルヴェの捕縛を頼まれた。再び裏門から城に侵入し、城内にいる彼を捕まえる。

「ジルヴェの元にはおそらく『花惑(はなまどい)のウロモリ』と『空斬(そらきり)のレン』がついているはずだ。君たちが倒した『岩砕(がんさい)のチャブレ』と『風舞(かざまい)のグレーラ』と並ぶ四天王の二人だ」

「え、あいつらって四天王だったのか?」

「それにしては手応えがなかったけれど」

 どうやら二人は知らぬ間に敵の四天王とやらを倒してしまっていたらしい。そして残念ながら僕が戦った相手はその部下だった。

「ウロモリはともかく、レンには注意した方がいい。私も直接まみえたことはないが、噂によると、その剣技は空をも斬り裂くほど美しいために『空斬』という異名がついているそうだ」

「なんだそれ。噂は噂だろ?」

「まあな。だが、警戒するに越したことはないだろう」

 ともかくその四天王二人を倒さねば、ジルヴェには辿り着けない。ずいぶんな大役を請け負うことになったが、カジとミレナがいれば何とかなる気がした。

「ついにこの時が来た」

 作戦の説明が終わり、第一部隊の兵士たち五十四名と第二部隊の先導を務める二十名が街の教会に集まった。同時に街の至るところで、武器を準備した住人たちが出陣の時を今か今かと待ち望んでいることだろう。

「我々が今立っているこの地には、多くの同志たちが無念を抱えたまま眠り続けている。この中にも、自分の身近な人間を失った者は少なくないだろう。その無念を晴らし、同志たちに安息を、そして、我々が自由を手にする時がようやく訪れたのだ」

 ストルツァが太く力強い声で兵士たちを鼓舞する。

「これまでよく耐え忍んでくれた。しかし、もうそれも必要ない。今こそ抱え続けた苦しみを開放し、自らの手で勝利を掴みに行こうではないか!」

 激しい怒号が地響きのように鳴り響く。

「行くぞ! 我らが故郷クロウジアを取り戻しに!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る