1-43 再会

「やっと起きたか」

 どうやら僕はいつの間にか眠ってしまったらしかった。薄っすらカジの声が聞こえて目を開き、眩しさに目を慣らしながら起き上がる。

「ここは!?」

 一足遅れて頭が回り始め、すぐに周りを見回して状況を確認する。

「大丈夫だ。ここは貧民街の一角で、長老の好意で一旦隠れ家として使わせてもらってる。もし追手が来たら街の人たちが知らせてくれることになってるから、とりあえずは安全だ」

 ブラッカとの戦いの後、僕はそのまま意識を失ってしまったらしい。何とかフェルとオサムが運び出してくれて、無事に裏門から逃げることができた。

 そして、カジもチャブレとの戦いを経て力尽き、同じように地下牢で助けた人々に運ばれてきた。途中でフェルたちとも合流し、傷だらけの僕たちを介抱するために、この貧民街まで連れられてきたというわけだ。

「俺はともかく、お前の方はかなり大変だったんだぜ? ここに着いたときには毒が身体中に回ってて、相当危ない状況だったらしい」

 そういえば、傷の痛みはまだあるものの、毒の方はすっかり抜けているようだった。

「フェルが毒に効く特効薬を持ってたからよかったが、それがなかったら今頃お陀仏だよ。俺の斧も刃こぼれしてたのを魔合金で修復してくれたし、オサムにはほら、おあつらえ向きの服を仕立ててやがる。全く都合のいいもんばっか持ってるフェルえもん様様だよ」

「いえいえ、偶然ですよ。流石の私も時を遡ったりはできませんから」

 ともかく一安心ということがわかり、フェルたちにお礼を言ったところで、張りつめていた緊張の糸がようやく解けた。全員無事でオサムも取り戻すことができたから、あとはここを去るだけだ。

「お、ちょうど戻ってきたみたいだぜ」

 傷ついた僕たちに代わり、街の人たちがミレナのことを迎えに行ってくれたらしく、彼女も元々の集合場所からこちらに向かってきていた。

 階段を駆け上がる足音が聞こえ、勢いよく部屋の扉が開く。

「オサム!」

「姉さん!」

 ようやく再開した姉弟は飛びつくように抱き合う。

「よかったなあ……」

 感動の再会にこっちまで泣いてしまいそうだったが、隣を見ると、カジは顔をぐしゃぐしゃにして誰よりも泣き崩れていて、何となく涙が引っ込んだ。お前じゃないだろ、思わずツッコミを入れてしまいそうになったが、それは野暮だと思いギリギリで堪える。

「ありがとうございました。助けていただいたことにはお礼を言っておきます」

 姉との話を終えて、オサムは僕の方まで来て頭を下げた。少し不服そうな顔をしていたが、それが彼なりの照れ隠しに感じて可愛らしく思う。

「ただ、姉さんはあなたみたいな人には渡しません」

 顔を上げると、彼は付け加えるように言った。

「な、何を言って……

ほっこりとした気持ちで油断していたところに、突然そんなことを言われて動揺する。一旦何を勘違いしているのかわからないが、彼の目は明らかに僕のことを敵視していた。

「僕はそんなつもりは……」

 慌てて否定をしながら、牢から連れ出すときに言ったほくろのことを思い出す。恥ずかしさと申し訳なさで、顔が熱くなるのを感じた。

 あのときは焦っていて、近しい人間しか知り得ない情報が何かないかと考えた結果だったが、今になって思えばとんでもないことを言ってしまった。

 旅の途中、魔力操作の自主練習を終え、経過報告をしようとミレナのことを探していたときだった。ミレナの杖が置いてあるのが見えたので、そちらの方に歩いていくと、なんと彼女は川で水浴びをしているところだった。

 咄嗟に目を逸らし、逃げるようにその場を去ったのだが、一瞬だけ見えた彼女の後ろ姿が脳裏に焼き付いてしまっていた。

 ちょうど尾てい骨の辺りについた、少し大きいほくろ。

 決して見るつもりなどなかったのに、見えてしまったのだ。

「まあいいです。今回のところは助けられた恩に免じて、これ以上の追求は避けておきます」

 何とか事を収めてくれたようで、オサムはねめつけるような視線を残して姉の元へ戻っていった。

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