2 彼

雨が連続して降り続いている。

だが授業の方は、一旦の区切りがついていたようだ。

時刻は二時二十分を少し回っているところだ。

授業終わりにやってくる十分のみの狭間の時間で、さっきまでゾンビのように気力を失っていたクラスメイトたちはみんな揃いも揃って元気を取り戻していた。

かく言う私もその一人で、一時間丸々休ませていた脳をフルに使うことを試みた。

さっきの声は誰だったのだろう?気のせいかな?

それか彼はものすごく地獄耳で、おまけに横目でチラチラと見られていたことに気づいていたのかも?

と、ありとあらゆる可能性を適当に考えてみたものの、答えなど出るはずもなく机に顔を埋める。

自分の腕の中で即席の夜を作り寝ようと試みるものの、騒がしくて寝付けない。

よく考えてみれば当然だった。

今日から通い始めた転校生の彼ーーー神谷翠が、右隣で鎮座しているのだから。


「どこ出身?」「髪長めだね」「ライン交換しようぜ」


何人ものクラスメイトたちが周りを囲み神谷にアグレッシブに、熱烈にアピールしている。

この集団にうまいこと混ざって、さっき私の声聞こえてたとか探りを入れたい気もしたが、やめておいた。

眠れずにかといって次の授業の予習もしたくはない気分だった私は膨れて、ただ窓を眺めている。外はだいぶ暗くなってきている。ザーザーと音を立てるほどに雨雲は成長してきているようだった。

「もうおっきくなんなよ。育ち盛りめが」

精一杯の憎悪を窓から空に送り、今日晩御飯何かななどと。考えることがない時に最後に行き着く思考をしていると、急に目の前が暗くなった。

「さきいいぃぃー」

後ろから柔らかい物体がのしかかると同時に、目隠しされていた。

「ぐっ。全体重かけるのやめてよってば!」

「うんんー。だめだよ。さきさきは私の」

微妙に噛み合わない会話、人懐っこい声から推測するにこいつはーーー藍月葵だ。

手を振り解こうとしても絶対に目から離そうとしない彼女だが、

なんとか後ろに手を回しお腹の辺りを触ろうとすると、ついに手を離す。

冷たくて小さい手を後ろにまわしてニコニコしていた。

眩しいくらいの笑顔を見ていると、なんだか怒るに怒れない。

そう言う対応をとるから舐められているのかも知れなかったが、考えるとキリがなくなるのでやめておいた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追憶の日に 水瀬 翔 @keru0113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る