お母さんの日記

ひなた華月

はじめに

優花ゆうかへ。


あなたがこの日記を読む頃には、お母さんはもうこの世にはいないでしょう――。

なんて、こんな書き出しをしたら、きっと優花は凄く怒るかもしれないわね。

でも、お母さん、こういうの一度やってみたかったの。

だから、お母さんのわがままを許してね。


でも、最初に何を書いたらいいのか分からなくて、悩んでいるっていうのが本当のところかもしれないわね。

だって、お医者さんから余命があと1年だなんて言われたときは、とても信じられなかったんですもの。


実際、今は凄く元気だし、自分が死んじゃうなんて想像は全くできないの。

ただ、1年後にいざベッドの上で後悔するくらいなら、今の内に色々とやっておいたほうが、この世に未練を残さないでしょ?


お母さんとしては、幽霊になっても優花に会えるんだったら、それもそれでアリかな、なんて思ったけれど、幽霊になって会いに来られても、優花だってビックリしちゃうわよね?

なので、お母さんはちゃんと成仏するほうを選びました。


前置きが長くなっちゃったけど、今日からお母さんは、日記をつけることにしました。

このままじゃあ優花に何も残せないと思って、お母さんでも今から出来ることを考えたら、それくらいしかないかな? と思って。


ただ、きっとこの先の内容は、特別なことは何も書けないと思うの。

というより、優花にとっては、少し恥ずかしい内容になる予定よ。



なんたって、この日記は、お母さんが優花との時間を忘れない為の日記だから。



でも、そうね……優花ももう、小学生になったのよね……。

ランドセルを背負った優花を見ていると、もうこんなに大きくなったのねって、お母さん、いつも思っているの。


本当に、優花と過ごした時間は、あっという間だったわ。

そんな優花の成長が見られなくなるのは寂しいけれど、優花はしっかりしているから、きっとお母さんがいなくなっても大丈夫よね。


そういえば、優花には、どうしてあなたの名前が『優花』なのか、教えていなかったわね?

きっと、最初の日記として書く内容としてはピッタリだと思うから、優花にも教えておきます。


だけど、本当に単純な理由よ。

文字通り、優花には『優しくて、花みたいに元気な女の子に育って欲しい』っていう願いを込めて、お父さんと一緒に決めた名前なの。

そして、優花はお母さんたちの願い通り、優しくていつも元気な女の子に育ってくれたわ。

だから、優花はいつまでもそのままの優花でいてくれることを願うわ。


そうそう、あと、お父さんのことも宜しくね。

きっと、反抗期も来るでしょうけど、お父さん、ああみえて結構傷つきやすいから、喧嘩はしてもいいけど、最後は仲直りしてあげてください。


……ああ、駄目ね。

もっと楽しいことを書こうと思っていたんだけど、やっぱりどこか寂しい感じになっちゃうわ。

あまり長くなってもいけないから、今日の日記はこれくらいにしておくわ。


それじゃあ、明日からは大好きな優花のことを、ちゃんと書いていくわね。

ただ、最後に一言だけ、どうしても伝えたいことを、優花に伝えます。




優花。

生まれて来てくれて、本当にありがとう。


お母さんは、これからもずっと、優花のことが大好きよ。



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お母さんの日記 ひなた華月 @hinakadu

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