第7話
目の前には石碑がある。僕の背後には血まみれの道が作られている。一度も諦めずに希望に縋りついてきた男の末路と言ってもいいだろう。
石碑には、こう刻まれていた。
「太陽、ここに眠る…愛すべき思い出と共に。」
ここは太陽の墓なのだ。そして今日は太陽の命日でもある。
12月8日午後4時26分40秒。太陽が最後に姿を現した時間、消えゆく日没の時間だ。
僕はショルダーバッグから水筒を出して、中の紅茶をコップに移し、ゆっくりと飲み干す。血と雨水混じりの紅茶だったからか、少し鉄の味がした。
掌に巻いていたハンカチを外して、コップを拭き、紅茶を入れ、それを石碑の前に置いた。
僕は手を胸に当て、空を見上げる。
あなたが見えることは無い。
あなたは象徴だった。あなたがいるだけで、全てが色づきを取り戻して幸せというものに気づけることが出来た。
すべてあなたから始まっていた。けして届くことはないと知っていたが、それでも僕は忘れることは出来なかった。あなたがいなくなってからもう七年が経つ。何もかもが変わってしまった。
もうあなたに会うことも会えることもないだろうけど、僕はあなたがくれた全てを忘れることは無いだろうし、あなたへの思いをずっと贈り続けるだろう。
親愛なるあなたへ。
何もかもが消え失せてしまってもその花束は決して散ることはなく、決してあなたを見捨てることはないでしょう。どうかこの想いが雲越えて、遠いあなたの元へ届いてくれることを強く願います。
そしてコートの
僕は石碑の前に、その真っ赤な花束とひとつの手紙を置いて、太陽のある方向を眺めた。
願ったって何も変わらないかもしれない。でも、願うことが大切だと思う。願わずして叶う願いなし。
この石碑がいずれ、墓としてでなく、太陽を讃える記念碑としてこの地に残ってほしい。
僕はそのまま、仰向けに倒れ込んだ。
ようやく休める。
そうだ、腕時計を外そう。もう時間に縛られることは無い。だが僕には左腕がないから、外すのに少し苦労するな。
また今度にしよう。
僕の瞳に雨が降り積もる。
降ってくる雨には、微笑んでいる僕が見えた。時が遅くなった気がする。
何か音楽が聴きたいな。
こんな時は、エリック・サティとかパッヘルベルが似合うだろう。
少し眠くなってきた。
こんなに頑張ったのだ。少しくらい休んでもいいだろう。
そして僕は瞼を閉じた。太陽の墓の前で、太陽と共に眠りにつくのだ。
もうじき、酸性雨が降りかかるだろう。僕は太陽と一緒になれるのだ。身も心も。
日華には赤きアネモネの花束を。
日華に手向ける、赤き花束 デミ @Anemone_322
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