第5話

 橋がようやく見えた。やっとここまで辿り着くことができたのだ。


 風が吹き荒れ、橋すらも呑み込んでしまいそうな程に海が激しく波打つ。暴風とも言えるそれは大地から様々なものを引き連れ空で舞っている。僕もその一部になってしまいそうだった。


 天候はすこぶる悪く、酸性雨もいつ降り出すかも分からない。島にまで間に合えばいいのだが。


 そうして僕は、橋に踏み込んだ。


 寒さが急速に加速していく。内蔵が凍るように冷たい。足にはもう感覚がなくなっていて、霧まみれの何も分からない視界を頼りに、まだ付いているか定かではない足でペダルを漕ぎ続けた。



 数刻が経ち、何故か僕は時刻が気になった。もちろん、右手に着いている腕時計を見ても時刻が分かるはずがないのに、無意識に視線はその腕時計の方に動いていった。午後四時二十六分四十秒。針は止まっていた。


 その刹那、破裂音のような音が鳴った。それと同時に僕はバランスを崩し、水浸しの地面に倒れ込んだ。

 受け身を取れず、真正面から倒れたのもあってか、僕の手と顔から熱く真っ赤な血が傷口から溢れだしてきた。


 血は、手から零れ落ちて雨水に混じり、流れ、コートに染み込んでいく。


 僕は、ジーンズから水浸しのハンカチを出し、顔を拭って掌に巻き付ける。

 そして深呼吸をし、重い腰を上げた。


 自転車を見てみたが、後輪がパンクしてしまっていて、走り続けていくのは困難に近かった。

 ここからは歩いていくしかないみたいだ。


 左足に痛みが走る。足を捻ってしまっていた。

 幸い、島まではあと少しで足を引きっていけばどうにかたどり着ける距離だ。


 やるしかない。


 僕はまた、島を目指して歩み始めた。 

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