第2話
やがてトンネルに差しかかる。空気が冷たくなり、雨の音もゆっくりと小さくなっていくのがわかる。もう何時間、自転車を走らせたのだろう。ダイナモライトとタイヤのゴムがすり減る音が淡々と響く。
同じ音の繰り返しで、同じことの繰り返し。絶えず僕は同じ行動を繰り返す。たとえそれが望まないことであっても、その行動は永続的に続いていく。
思考は巡る。記憶は錆びて、感情は溢れ、心臓は音に溺れてゆく。
僕の心に言葉が溢れ出す。それは誰かの言葉だったり、僕自身の思いだったり、小説に書かれていたものだったり。
多分僕には、アイデンティティがない。昨日の自分と今日の自分は、きっと違うもので明日の自分だって何を考えて行動をするのか分からないし、自分という不確定な事象を自分でも認識できていなくて、感情はカレイドスコープみたいに、多面体を形成して複雑に混じり、気付かぬ間にそれは反映されて、僕は変化し続けている。
現在とは、未来を喰らい蝕みつつある過去の捉えがたき進行であり、あらゆる知覚はすでに記憶であって、僕は失ったり、得たりを死ぬまで繰り返すのだ。
迷宮で彷徨よい、いつ着くかも解らない出口をずっと探し歩いて生きていくのだと思うと、立ち尽くすしかない。
それでも時間は止まることなく、後ろを振り返って例え地に歩み続けた足跡が残ってなくても、
そして僕は長いトンネルを抜けた。
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