第3話 シャッター商店街

駅を出た俺と大学生5人組は駐在所を目指して歩いている。大学生達は辺りを見ながら歩いているが誰も言葉を発していない。俺はと言うとこの後の展開が何なのか、必死に考えていた。


(駐在所は留守のはずだ。そして駐在所にある電話をかけても誰にも繋がらないはず・・・)


商店街の中に入ったが、全ての店はシャッターが下がっており、歩いている人は誰もいない。もちろん車も通っていない。


「俗に言うシャッター商店街ってヤツか」


タイキがボソッと言った。


「そうかもしれないけど、まだ昼前だよ。1人くらい歩いてたっていいのに・・・」


返事をしたユウスケが店と店の間の路地まで見ているが、そこも誰もいないようだ。

空は晴天で太陽が真上にあって辺りは非常に明るい。しかし人気はひとけがなく、シャッターだけの商店街は少し薄暗く見える。俺達はそのシャッターの中を進んでいく。


「もしかしてあれが駐在所でしょうか」


ユイが少し先を指差した。一軒だけシャッターが降りていない建物がある。正面には赤いランプが下がっていた。正面に着くと〈鬼隠村駐在所〉と看板が掲げられている。

引戸を開けて中に入ったが、机が2つ置いてある以外無人だった。その机の上に文字の書いた札が立っている。


〈現在見回り中のため不在です。緊急の場合はこちらまで――〉


「いないのか。どうしようか・・・」


少し困った風に俺が言う。いや、やる事はわかっている。普通なら札に書いていた通り、机にある電話を使う。しかし、繋がらないとわかっている俺は、受話器を取る気にはなれなかった。


「これを使って電話しろって事だよね」


コウが受話器を取って札に書かれてある、どこかの警察署に電話をかけた。コウの耳に当てている受話器から、小さいながらも相手の声が漏れて聞こえる。


〈おかけになった電話番号は――〉


「あれ、繋がらない番号だぞ。ちょっと実家にかけてみる」


コウは受話器を電話器に1度戻し、もう一度持ち上げて番号を押す。全員がそれを見守っている。無駄だとわかっている俺も見ている。


〈おかけになった電話番号は――〉


「え、なんで?朝、実家にかけたのに・・・」


コウの顔が青ざめる。それを見たユウスケが受話器を取り上げた。


「どうせ間違えたんだろ?これなら間違いない」


ユウスケがかけた番号は110番だった。受話器を全員に向ける。なるほど。それは間違えようがないと俺は少し感心した。


〈おかけになった電話番号は――〉


「ウソだろ!」


全員が青ざめた。こうなる事がわかっている俺でもビックリしたから、彼らはかなり驚いているはず。


「こうなったら電話は諦めよう。商店街で誰か見つけて、その人に連絡してもらおう」


コウの言葉に頷いたミクとタイキが真っ先に駐在所の外に出た。続けて残りの4人も外に出る。


(たしかこの後、バアさんだったかな?1人だけ誰かが歩いていたはず・・・)


「誰かいませんか」


全員が大声を出して商店街を歩いていると、商店街の奥から手押し車を押したバアさんが歩いてきた。ユウスケが安心した表情で呟く。


「なんだよ。やっぱりいるじゃん」


「第1村人、発見だな」


タイキの言葉に苦笑した全員が、小走りでバアさんのところへ向かっていく。バアさんの前に来るとミクが早速話しかけた。ユイとバアさんのやり取りはこうだ。


「こんにちは」


「あれぇ。久しぶりじゃのぉ」


「初めてお会いしましたよ、おばあちゃん」


「そりゃすまないねぇ。佐藤さんとこのお孫さんかい?」


「違いますよ」


「すまないねぇ。すっかりボケてしまって」


「気にしないでください。少しいいですか」


「こんなところにいての準備は終わったのかい?」


「おむかえさん、ですか?」


「終わってないなら早く戻りなされ。お迎えさんに怒られるぞ。あははは」


バアさんは笑いながら商店街を曲がって路地の奥へと歩いていく。皆、バアさんとこれ以上会話を続けるのは不可能だろうと、誰も後を追わなかった。俺もバアさんが発した言葉について考えていた。


(お迎えさん?そんな名前だったかな・・・)


「あれじゃあ、何言っても無理だよな」


「そんなこと言っちゃ失礼よ」


ユイがタイキを軽くたしなめる。しかし辺りを見回しても誰もいなかった。店のシャッターを叩いたりもしたが、店の誰かが応じてくれる気配はなかった。

結局、先ほどのバアさん以外誰も見つけることが出来なかった。全員がため息をついたとき、遠くの方で高い音が鳴った。


「汽笛だ!」


ユウスケが大声で叫んだ。俺達はすでに駅からかなり離れていた。仮に電車に乗れたとしても、すでに間に合わない。


「駅には運転手なんていなかったのに!」


ユイがやり場のない怒りをぶちまける。


「君らはどうする?駅に戻って次の電車を待つ?」


「シンさんはどうするんです?」


俺の質問をミクが質問で返してきた。次の展開を思い出した俺は、突然未来の事を言っても逆に怪しまれると思い、多少濁して答えた。


「もう少し商店街の奥に行ってみるよ。開いてる店があるかもしれないし」


(サービス業には違いないけど、お店ではないよ・・・)


「俺たちはどうしようか?」


コウが4人に話しかける。


「次の電車がすぐ来るとは思えないよなぁ」


「だったら店でも何でも誰かを探したほうがよくない?」


ユウスケやタイキの会話を聞いてコウが俺を見る。


「一緒に探しますよ。もう少しでお昼ですし、お腹が減りました」


「わかった。もう少し見て回ろう」


俺の言葉にミクもユイも頷いた。俺もそろそろ腹が減りそうだ。またゾロゾロと俺と5人歩き出す。もう少し歩くと開いている、ある建物があるのだ。


(もう少しで旅館がある)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る