第2話 おにかくれむら

駅を出た俺は少し離れたところにある目抜き通りまで、キャリーバッグを引きながら歩いている。目抜き通りと言っても遠くから見る限り村の商店街って感じだ。とりあえず駐在所に行こうと思う。


「待ってくださーい」


突然駅の方から声がしたから、立ち止まって振り返った。大学生5人組グループが駅を出て、旅行バッグやらキャリーバッグを引いてこっちに向かって来る。近くまで来た時、俺から声をかけた。


「結局降りたんだ?」


「あのまま待ってても仕方がないんで」


黒髪メガネの男子学生に、そりゃそうだとうなづく。


「とりあえず駐在所に行こうと思ってるんだけど、一緒に行く?」


「そうですね。一緒に行きます」


俺の問いかけに黒髪ロングの女子学生が答える。5人と一緒に歩き始める。うーん。全員沈黙。話すこともないし、なんか気まずい・・・。

沈黙を破るように茶髪ショートボブの女子学生が話しかけてきた。


「こんな状況に一緒になったのも何かの因果・・・縁だと思うんです!仲良くしましょう!」


ポジティブな女の子だなと苦笑しながらも俺はそれを了承した。


「あたしの名前はミクっていいます。この子はユイ。で、男子は左からコウ、タイキ、ユウスケです」


「オレら男子の扱いがヒドくない?いいけど。よろしくです 」


コウが黒髪メガネ学生。タイキが茶髪学生。ユウスケが短髪学生。


他の学生も挨拶してくる。


「俺はシンだ。よろしく」


次の瞬間、俺は何かを思い出す感覚におそわれた。


(あれ、この五人の名前・・・なぜか知っていたような気がする)


デジャブかなと思い、深くは考えなかった。

商店街の入口に来たところで、道路にまたがって歓迎アーチが掲げてあった。その前で全員が立ち止まった。


〈ようこそ鬼隠村きいんむらへ〉


タイキがアーチを見て不審そうな顔をして呟く。


「鬼とか隠れるとか・・・なんかなぁ」


「うん、おにかくれむら?なんかホラーみたいだ」


ユウスケが自分の言ったことがおかしかったのか笑っている。その時、俺の中で衝撃が走った。


(五人の名前。おにかくれむら。ホラー・・・ホラー映画じゃん!!)


鬼隠村おにかくれむら〉。何年か前に見たホラー映画の名前だ。旅行中の五人の学生がその村に迷い込み、おぞましい体験をするという内容・・・。


(まてまて、落ち着け。思い出せ)


たしか主人公とヒロイン以外の3人は誰かに殺されたはず。主人公の名前がコウ。ヒロインはミク。そして・・・ユイにタイキにコウスケ!?


(こ、これは偶然なのか?映画の内容は・・・。うっ・・・思い出せない!)


当時、人気俳優や女優を起用して話題になった映画だ。それに中身もてんこ盛りだった。オカルト、スプラッター、サイコ、シチュエーション。そしてなぜか三角関係の愛憎と、村の女性とのピュアな恋愛。


(だめだ。頑張って思い出しても表面をなでる程度だ)


もちろん映画の出演者達とここにいる大学生達は別人だ。髪型や格好は・・・似ているかもしれない。映画のヒロインのミクは髪は長くなかった。それと対照的に映画のユイは黒髪でロング。男は・・・主人公のコウがクロメガネ以外は忘れた!


(考えるほど似ている部分が増えていくが・・・)


それでも偶然なのかもしれない・・・。

俺にかけてくる声で思考が途切れた。


「シンさん、どうしたんですか?」


「え?いや・・・気味悪い名前だなと思ってね。よし、行こう」


5人にうながして、また歩き始める。


(今思い出した。映画の最初の内容は無人の電車だ!)


無人の電車はすでに俺も体験済みだ。映画と同じストーリーがこの先展開されていくと・・・。やはり偶然ではないのか。


(もしそうなら、どうにかしないと!)


むざむざ誰かを見殺しにはしたくない。ただ、この先映画と同じストーリーを辿たどるかわからない。まずは確認が必要だ。それと重要な事がある。


(俺の立ち位置だよなぁ・・・)


映画に出てこないは果たして、登場人物と同等なのか。それとも傍観者なのか。そのどちらかで状況と行動はかなり違ってくるはずだ。俺も危機から自分の身を守る必要があるのか否か。


そしてもうひとつ。


(映画であったようなラブシーンに、俺は遭遇するのか・・・)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る