世界を識るオリエンテーション:KAC202211

石狩晴海

天弦欠けし逆七芒星の一点

 つまるところ"封龍機"ヴァ・シリス・クとは日報係、世界の日記帳ログである。


「毎秒、毎刹那、1ナノ秒事に増えるこの世界の情報を収集するシステムの一端。

 転じ事象を確定硬化させる、"石化させる"邪眼を運用するドラゴンという存在です」


 中空に描かれた"逆七芒星"の右中点を指して巫女のメグムが解説する。

 どーだと胸を張り良い気分、自らの主人を誇る。

 メグムと向き合うユキナは頭を抱えた。

 理解度の初速から超加速である。ついていけない感がバリバリ伝説だ。

 とりあえず所感を述べてみる。


「それって本当に生き物なんですか?

 すごく機械的なモノのように思えるんですが」

「機構なのだから、そう感じるのは当然です。

 でも、そのシステムに人格が付与されている、されてしまったのだから、受け入れるしかないですね」


 水色の長衣トーガを払いメグムが嘆息する。

 ユキナは軽い頭痛を感じていた。


「しかも世界を保管するって、完全に人間の処理能力を超えてますよぉ」

「だから彼らは人ではなく龍、幻想の存在を被っているのですよ。

 あくまでわたしたちとの接触は、人間が対応出来るランクまで引き下げて行っているのです」


 映像が追加される。

 封龍機の形象具現体、外観は大型爬虫類。しかし脚の数は4対8本、相応に全長もあり歪だ。

 三角形の頭近くに大きさ比較用のユキナがいる。ユキナなど一口で食べられる巨大さだ。そこから換算するに、頭頂から尻尾の先までゆうに100mは超えている。

 トドメにそれぞれの脚の間には大きな瞳が開いていた。胴体の目は多種多様な虹彩瞳孔色彩をしており、目蓋が開閉するごとに変化する。それら全てが世界を石化させる邪眼なのだろう。


「正直、気持ち悪く感じます。直属の部下であるメグムさんには失礼かもしれませんが」

「まあミュータントコモドドラゴンに無理矢理好感を抱けとは言いませんよ」


 少し悲しそうにメグムが拗ねた。こんなに可愛いのに。

 呟きをスルーしてユキナが白旗を掲げた。


「どうしてカナトくんが詳細の説明を渋るのか解りました。

 こんな存在があと6つもあるとか、考えたくないです。

 その一つが世界を壊す怪獣だとか、知りたくなかった……。封印されていてよかった……」

「とはいえ、好奇心でここまで踏み込んだからにはシステム概要を理解してもらいますし、龍機の誰かと接続してもらいます」

「ですよねー。私の猫、死んじゃいました」

「ここに簡易の図説があります(http://www.tinami.com/view/731036)から、目を通しておいてください。適性テストは後でスケジュールを出します」

「色々とご苦労をお掛けします」

「こちらも戦力が増えるので歓迎します」

「戦力……、メグムさんたちは誰かと戦っているのですか?」

「基本的には身内のじゃれ合いですが、一つだけ特例があります」


 メグムが"逆七芒星"の底点を指差す。


「最後方"滅龍機"。世界の消失を司るシステムとは、生存、存在を賭けて争うしかありませんから」

「えっ? だって終末の巨獣はトオルくんだって話でしたよね」

「ハムルは殺すだけ、幻想の死をって世界を再生させる神話から歴史への変換点で収まります。

 完全に世界から消え去る事象とはまた少し違うのですよ」


 ユキナはぞっとした。

 踏み入れてはいけない箇所に入ってしまったかと、今更に後悔の念が強まる。


「これは早まったかもしれない」


 超能力につられて酷い場所に来てしまったのかもしれない。


「大丈夫ですよ。そうめったにエンカウントするわけじゃありませんから」

「それフラグになるので止めましょう」


 微笑むメグムに、精一杯の強がりで返した。


「それに世界を消す存在には、日記をつけることで戦うことができますよ」

「どうゆう理屈ですか?」

「相手を消し去る力には、量産された自己で対抗するのです。それすなわち自分の活動を記した日誌のことです」

「雛人形みたいな、身代わりのお守り作っておくということですか」

「正解です。日々の記録が記載されているものなら俄然有効です。しっかり几帳された家計簿は効果覿面なのです」

「うーん。家計簿に負けるボスってどうなんだろう……」


 腑に落ちない気持ちで腕組みするユキナであった。

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世界を識るオリエンテーション:KAC202211 石狩晴海 @akihato

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