2話 春ヶ瀬さんがゲームセンターで遊びたい話
「こんにちは夕陽くん。」
「1人でご飯なんて寂しいことしてるじゃん。」
「…わざわざ僕をからかいに来たんですか?」
「違うよー、そんなくだらないことで来たんじゃないし。」
「くだらないと思ってるならやめてくださいよ。」
「それは気が向いたらって感じ。」
「今からちょっと来れる?」
「…よし、行くぞ。」
「いや、どこに連れて行くんですか?」
「というかまだ返事してませんし。」
「屋上。」
「別にどこで話してもいいんだけど私の気分的に屋上に行きたいから、かな。」
春ヶ瀬さんと僕は友達でも何でもない。
家に帰っても誰も居ないし、生きていても毎日退屈だし、大して楽しい事も無い。いっそ死んでしまったら楽だろうな。そんな事を思いながら日々を過ごしていた僕の前に突然、春ヶ瀬さんが現れた。
春ヶ瀬さんはなぜか僕が死にたがっている事を知っていた。
本当になぜなのかは分からないし教えてもくれない。
「はい、夕陽くん。あ…もしかしてアレルギーとかある?」
「…ありませんけど。」
「なら良かった!家の卵焼き美味しいんだよ!食べてみて。」
「あ、ほんとだ。美味しい。」
「…じゃなくて、なんで僕は春ヶ瀬さんと一緒に屋上でご飯食べてるんですか。」
「ダメだった?」
「まあ、そういう訳では無いんですけど。」
「なんか話があるとかなんとか言われたので来たのになんで…」
「しかもおかずまでくれるなんて、何も返せませんよ?」
「いやいや、お返しとかいらないから。」
「だって夕陽くん、そんなどっかで適当に買ってきたみたいなパン毎日食べてたら体に悪そうじゃん。」
「それはそうですけど。」
「というか、夕陽くんのおかげで思い出した。夕陽くん、今日の放課後空いてる?」
「…?」
「私、やってみたい事があるんだ。着いてきてよ。」
「…わー、ひろーい。」
「春ヶ瀬さん…ここは一体…?」
「見れば分かるじゃん。ゲームセンターだけど。」
音が大きい。
そこら中の画面や機械から大音量の電子音が響く。
感じたことの無い感覚に自分が少し高揚している気もする。
「そういう事じゃないんです。なんでゲームセンターなんですか…。」
「私ね、ゲームセンターで遊んだ事ないんだ。だから今日、折角だから遊びに行こうと思ったんだ。」
「連れてくるのは別に僕じゃなくてもいいじゃないですか。」
「何言ってんの。こういうのは、初めてを共有し合うのが楽しいんだよ。」
「そういうものなんですかね。」
「…折角来たんだからめいいっぱい遊ばなきゃ。」
「ほら、行くよ。」
「あ、待ってください!」
「春ヶ瀬さん、荷物多すぎませんか?少し持ちましょうか?」
「いいんだよ、そんなの。」
「というか夕陽くんが少なすぎるだけじゃない?」
「ほら、今日ゲットできたの、そのぞうさんのキーホルダーだけでしょ?」
「UFOキャッチャーって難しかったので。」
「いやー、にしても夕陽くんがボタンがなにか分からなかったとは。」
「普通わからないですよ。ゲームセンターなんてはじめて来たので。」
「えー?そうなんだ。」
「…あ、そうだ。」
「じゃーん。みてみて。」
「同じキーホルダーですか?」
「そう。夕陽くんとお揃いの物ほしいなーとか思ってさ。」
「ほら…こうやってカバンに付けたら…」
「お揃い、だよ?」
「そうですね。」
「いやもっと喜んでよ!私とお揃いなんて光栄だよ!」
「え…あ…あ、いえーい…?」
「なにそれめっちゃ棒読みじゃん、もう一回!!」
「い、いえーいっ…。」
「よし…それでいいんだよ。」
「じゃ、また明日。ばいばい。」
晴れやかな顔で手を振られる。
無視するのも悪い気がしたので、軽く頭を下げて後ろを向いた。
これまで何も付いたことが無かったカバンから聞こえるキーホルダーの揺れる音が、なぜか耳についた。
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