第37話
第五章 絡み始めた運命の糸
エディスターシャの誕生日から、そろそろ半月が過ぎようとしている。
神殿の思わぬ介人で逢いに行けなかったあの日から。
リュシオンがエディスのために、自らの生命を賭したことが、宮廷に広がったのは、そ日のこと。
あの日のしが思わぬ波紋を呼んで、リュシオンが動きだせなくなったのは、自業自得だった
かもしれまい。
それでも泣き暮らしているだろうエディスのことを思うと、胸が痛んた。居ても立ってられなかった。
そうこうしている間に、以前から準備していた祖王の聖誕祭に関する準備(つまり祖王役をリュースが演るということについてだが)はじまり、苛立つだけの日々が繰り返される。
大役を仰せつかったリュースが、多少、緊張を肩に漲らせているのをみて、リュシオンが言葉をかけて落ち着かせてやったりした。
祖王役というだけでも大任だが、それで王都全体を行進するのだ。
しかもこれにはおまけがついている。
リュシオンが演じるものと期待している民衆を、リュースはその登場ひとつで納得させ聖誕祭を成功させるために、興奮状態へと運ばなければならないのだ。
珍しく強気な皇子が緊張しているのは、そのためだった。
必要とされているのは強烈なカリスマ性による、民衆心理のコントロール。
人々の眼をシオンではなく、目分に向けさせる、王としての魅力だ。
まだ幼いリュースには正直、眉の荷が重かった。
例年と違うことといえば、祖王役を父親の神帝から、世継ぎの皇子が譲り受けたことのみ。
なのに宮廷には言い知れない緊迫が漂っていた。
それほど民衆のリュシオンに対する期待は高まっていたのだ。
果たしてリュースに失望する民衆を先導し、聖誕祭を成功させることができるのか。
不安視しているものは、両手でも足りないほどいるだろう。
そのことはリュースもよくわかっていた。
今の自分には民衆どころか、巨下を納得させるだけの実績さえもないのだと。
そのことはリュースもよくわかっていた。
今の自分には民衆どころか、臣下を納得させるだけの実績さえもないのだと。
だからこそ、敢えてこの時期にリュシオンが自分に譲った意図も見えていたが。
温室でられている皇子には、だれも信頼は寄せない。
リュシオンはそれをよく知っているから、リュースを失面に立たせたのだ。
期待はずっしりと肩に重かったが、それを放棄するほど無責任にもできていなかった。
負けず嫌いのリュースは、みなが不安そうな眼を向ければ向けるほど、反発して燃え上がるのだ。
実にお手軽な性格である。
周囲ができないと口にすればするほど、リュースは意地になり、遂には不可能を可能にしてしまうのだ。
それが最大のリュースの武器だと、リュシオンは知っていた。
だからこそ、綱渡りのような賭けに踏み切ることができたのだから。
負けることを自分で認めない気性。
リュースが妥協することを覚えないかぎり、どんな窮地に立っても大丈夫だ。
リュシオンは態度にこそ出せなかったが、心の底からそう信じていた。
本来なら瑠璃月の初日に行われるはずだった祖王の聖誕祭は、神帝から世継ぎが祖王役
り受けたという、最大の難関があったため、例年とは違いリュースの聖誕祭の前日に執われることになった。
それは重責を背負ったリュースに、心構えをさせるためでもあったし、その他諸々の諸事情
から実現したことでもある。
やはりみな楽観していられないのだろう。
民衆はそんな事態を訝しんでいたようだが、リュシオンは敢えて祖王役を世継ぎに譲ったことは公表しなかった。
公表すれば当日を迎えるまでに、民家が騒ぎ立てないという保証がなかったし、不意打ちの
ほうがリュースがやりやすいだろうと判断したためでもある。
祖王役は譲ったとはいえ、神として指揮を取らなければならないリュシオンは相変わらず多忙だ。
多忙な中、睡眠時間を削ってでも、遅れているエディスの誕生日の贈り物を、こっそり用意
していたのだが。
祖王の聖誕祭も浮ついてきて、リュースの様子も落ちついてきたある日。
リュシオンはようやく時間的な自由を見つけて、そっと王宮を抜け出した。
苛立ちながらもエディスのためには動きだせなかった半月間。
内心で何度舌打ちしたかしれない。完成した髪飾りを届けることさえままならない日常に。
なによりも自分の殻に閉じこもりやすい、怯えた少女の蒼い瞳が、脳裏から消えなくて。
彼女が待っているのは、いつだってリュシオンひとりだった。
誕生日に放り出されて半月も連絡さえなくて、彼女がどんな気分でいるかと思うと、胸が抉られるような気すらした。
あまりに荷立ちすぎてジェノールや、義兄の侯爵殿に八つ当たりめいたことまでした。
あのときは彼らも当惑したらしく、何度もリュシオンの様子を伺いにきていたが。
焦った気分そのままに足早に、エディスの館を目指す。
いつものようにから離れた大の傍に、エディスの姿はあった。
ぽつねんとひとり座っている。
膝を抱えて踞るように。
その様子がどこか異様だった。
「エディス?」
不安に駆られて名を呼んでも、エディスは振り向かない。
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