第24話

 リュシオンのスケジュールが、午後からきれいに空いているので、この日はジェノールの帰宅も早い。


神帝が息抜きをしている間、ジェノールも肩から力を抜いて、屋敷で過ごしているはずの日だった。


 それがあの日に限って帰宅が遅く、心配していたアリステアが目撃したのが、ひどく憔悴した父親の姿だった。


「蒼月の聖日? そういえばあの日は親父殿も変だったな。午後になっても王宮にいたはずだけど」


 例年なら王宮から姿を消して、お忍びを満喫している父親が、何故か今年に限って王宮にいた。


 それはリュースも知っている。


 そのときなにがあったのかは知らないが、王宮内がやけに緊迫していたのも覚えている。


 もしかするとあの目に、神殿長が来訪したのだろうか?


 リュシオンと神殿の不仲は有名だから、そうだったとしても不思議はないが。


「親父殿の場合、相手が神殿だったらどんな脅しを使ってもふしぎはないけど」


 そう言いつつレティシアを見るが、彼女が納得している感じはなかった。


 神帝と神殿との不仲を知っていても、暗殺を条件に提示するほどの意味を見出せないのだろう。


 それこそリュシオンの性格なら、気に喰たない相手であれば、そのくらいの報復をしてもおかしくないのだが。


 まあ憧れの君という色眼鏡でリュシオンを見ている令嬢方には、理解の外にあるのかもしれない。


 本当のリュシオンは決して理性的ではないのだが。


「カッとなると見境のつかないところがあるからなあ、親父殿は」


 ぶつぶつと愚痴るリュースに、アリステアは苦笑い。


 同じような感想をどうやら父親から聞いているようだ。


「もうすこし周囲に与える影を考えてから動いてほしいものだけど、言ってみてもきっときょとんとするだけだろうな。本気でキレると自分が見えなくなる人だし」


 要するにリュシオンを本気で逆上させると、報復手段が非常識なものになるのだ。


 本人にはそれがやりすぎだという感覚もないから、平然と実行する。


 それが周囲の心臓を電かそうと、我関せずである。


 リュシオンはそういう型破りな一面があった。


 おまけに一度言いだしたら退かない性格をしていで、一度つむじを曲げると中々機嫌を直してくれなくなる。


 かくいうリュースも、一度親子喧嘩で徹底報復を受けたことがある。


 まあそれは別の問題だが。


「きっとせっかくの休日を神殿に潰されて、怒り狂ってたんだな、親父殿は。調見の後ですごくジェルに比られたんだろうなあ。きっと言った本人はケロッとしてたんだろうけど」


 血相を変えて怒鳴りつけるジェノールを振り向いて、きょとんとしているリュシオンの顔が浮かぶ。


 それだけで秘書官に同情したくなるリュースであった。

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