第17話
レティシアの怒りを買って絶縁にされても、彼女から得た情報でリュシオンはきっちり行動を起こしていた。
転んでもタダでは起きない性格らしい。
彼女との会話を反芻している間に気付いたのだ。
そういえばエディスは装飾品らしきものを身に付けていたことがないと。
彼女が望めばどんなものでも手に入るし、高価な宝飾品だってレティシアに劣らない数は持っているはずだ。
だが、それらをエディスが身に付けることはなかった。
身に付けているドレスこそ、流行のローブ風の最高級のものだったが、それにしても華美なデザインではない。
可憐なドレス以外に彼女の身を飾る物はなにひとつないのだ。
そんなものは気にならないほど、エディス自身が綺麗だったので、リュシオンも見逃していたのだが。
一度純白のドレスを身に付けていたことがあり、そのあまりの美しさに驚いたことがある。
花嫁を思わせる真っ白で飾り気のない。
けれど可憐なデザインの。
しかしそのドレスの欠点は、襟元が寂しいことだった。
あまりにさりげないデザインだったので、襟元だけが寂しい印象を受けた。
普通なら首飾りの類で飾るはずだが、エディスはなにも身に付けていなかったのである。
おそらく首飾りを引き立てる計算の上で、デザインされたドレスだったのだろう。
首飾りが引き立つように、わざと素っ気ないデザインだったのだ。
エディスの身分なら、それに見合うネックレスは持っているはずだった。
『どうして首飾りをしていないんだ? とても綺麗なのに襟元だけが寂しくて勿体無いな。首飾りをつければ、きっともっと綺麗だぞ?』
お世辞抜きでそう言えば、エディスは声を殺して笑った。
『あまり華美なデザインの物は好きじゃないのよ、兄さま。わたしが持っているのは、聖稀として高価なものばかりでしょう? わたしは自分が持っている宝石類が、あまり好きではないの』
そう言って寂しそうに笑っていた。
思い返して改めて気付いたが、エディスは飾り気のない衣服を好んだ。
華美なデザインの物を身に付けている姿は、ほとんど見たことがない。
色も白を好んでいるようで、身に付ける衣服には必ず白が使われていた。
着飾ることがあまり好きではないのだと、エディスは冗談っぽく言ったものだ。
あのときは着飾らなくても綺麗だと思っていたから、つい聞き流していたが。
思い出した一連の出来事と、レティシアからの情報源を元にして、リュシオンは今回の贈り物を決めた。
少し手間暇がかかるし、材料集めにも時間がかかるから、間に合わないかもしれないが。
それでもエディスが、これを身に付けた姿を見てみたくて、髪飾りに決めていた。
宝石類に関して鑑定士いらずのリュシオンである。
彼が吟味して細工する髪飾りなら、超一流品になるのは間違いない。
デザインする際のモデルから、エディスを意識して作るなら、絶対に彼女に似合うものになるだろう。
手渡した髪飾りを身につけたエディスを想像するだけで、なんだか嬉しくなるリュシオンだった。
そんなこんなでリュシオンが危惧した通り、彼女の誕生日は通り過ぎてしまった。
例年なら贈り物をくれたリュシオンが、今年は訪れてもくれなかったため、エディスは泣き出しそうな顔で誕生日を過ごした。
なにしろ彼が出逢ってから初めて誕生日に逢いに来てくれなかったのだ。
誕生日に来訪がなかったのは、本当に初めてだった。
どんなに無理をしても、エディスの誕生日だけは逢いに来てくれた。
短い時間しか逢えないような多忙なときでも。
それがなんの連絡もなく、彼が来なかったのだ。
エディスの不安はとても大きかった。
彼がくれる贈り物も嬉しかったが、エディスが一番嬉しかったのは、彼の来訪そのものである。
誕生日にひとりじゃない。
ただその事実だけが、エディスを本当に喜ばせていたのである。
リュシオンと出逢ってから、誕生日の夜に泣きながら眠ったのは、これが初めてだった。
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