第29話 援軍・防戦・メルトダウン
王都直下原発のメルトダウンを止める為、ファラリスをひとり地下に残し、地下から地上へと駆け上がってきた二人が、施設の入り口から出て最初に目に飛び込んできたのは、天へと向かって今か今かと飛び立つ時を待っている巨大なロケットと、その下でずらりと並んだ王都警備隊の一軍であった。全員がどこか有機的な鎧に身を包み、右肩の部分に「106」の数字が刻まれている。
「・・・!!」キュイイイ・・・
「くっ、そこまで考えてたとは・・・どうやら簡単には通してくれないようね・・・!」ジャキン!!
ギロチンとメイデンはとっさに構えたが、そこでもやはりリアス王の無駄だ、という声が聞こえてきた。やはり立体映像から切断者たちに話しかけている。
「君たちは”龍”と戦わなかったのか?自分たちの攻撃を全く通さなかった強靭な鱗を持っていたはずだぞ。この王都警備隊の鎧には、すべてその龍のうろこが使われているのだ」
「龍は私たちが倒して、重光線と共に焼き尽くしたわ!」
「あれはおとりだ。我々は龍の鱗の遺伝子情報さえ手に入ればよかったのだ。弟がお前たちを足止めしてくれたおかげで、我々は研究成果をここへ持ち帰ることに成功し、この通り鎧に転用できるまで培養させた」
「な、なんですって・・・!?」
この時、ギロチンはようやく彼、”彼”の言葉の意味を知った。彼はすでにこの存在を突き止めていたのだが、あと一歩のところで自分たちを導けなかった。だからあの時、遅すぎたとつぶやいたのだ。
「あの時は龍一匹で済んだが・・・今回は全部で106人はいるぞ。しかも、対切断者対策を充分に訓練した、エリートたちだ。そう簡単にはやられぬぞ。まあ、せいぜいあがくんだな。ははは。・・・行け。106大隊!!」
「「「「リアス王、万歳!!!!」」」」
対切断者攻撃特化部隊、106大隊は皆そう叫ぶと、一斉に武器を掲げて雄たけびと共に切断者たちに襲い掛かった。
「・・・ッ!!」
ブウゥン!!
ギロチンはとびかかってきた兵士に高熱度振動剣を振り下ろすも、ギン!と音を立てて斬撃がはじかれた。どうやらリアス王の言っていることは嘘ではないらしい。攻撃が通じないとわかった二人はすぐさま肉弾戦へと切り替え、どうしても防御が甘くなる関節や顔面を中心に、襲い掛かる兵士たちに攻撃を食らわせていった。
ギロチンが関節技を決めて首をボキリとへし折ったかと思えば、メイデンが鎧のわずかな隙間を狙ってズガンと貫手を炸裂させていく。しかしこの兵士たちはどうやら痛覚を感じないようにされたらしく、手が、足が、首が、胴が折れても全く攻撃の手を緩めることはなかった。このままではらちが明かない・・・地下で戦うファラリスのためにも、どうにかこいつらを抑えてリアスを追わなければ・・・
「・・・ここで時間を・・・潰すわけには・・・!!」
痛みを知らぬ106大隊。必死に捌く二人。刻一刻と過ぎていく時間・・・メイデンは焦った。
「せめて、こいつらを抑えられるだけの人数がいれば・・・くっ・・・ごめんなさい、ファラリス・・・」
メイデンでさえもが諦めかけたまさにその時、思いは天に通じた!
「野郎ども、かかれ!!」
何処からか女らしき声が聞こえたかと思うと、それを合図に、動きやすい服装に青いバンダナを頭に付けた大量の屈強な男たちがわっ、と雄たけびを上げて城壁からなだれ込み、106大隊を攻撃し始めたのだ。一連の出来事でいったい何が起こったのか、訳も分からず二人は戸惑った。そこへ、この集団のリーダーと思われる人物が二人のもとへ近づいて言った。
「・・・久しぶりに会ったと思ったら、何だい何だい警備隊ごときに手こずっちゃって。あたいを救った男はこんなに弱くはなかったはずだけど?」
女は顔の半分を覆っていた赤いバンダナを取って素顔をさらした。二人は驚愕した。その顔に見覚えがあったのだ。特にギロチンは、かつてこの人物と一時処刑されかけたことがある・・・盗電族の女首領だ!
「・・・な、何故ここに・・・!?」
「前にあたいが助けられた、”同業者”に久しぶりに会ってね。その男が必死にせがむもんだから、恩返しのついでにあんたらを助けに来たってわけさ。あんた、あの男と知り合いだったら、そういえばよかったのに・・・」
「・・・まさか・・・!」
”同業者”がいったい誰の事なのか、二人は知っていたが、あえて口にはしなかった。今は一刻を争う事態である。感傷に浸っている場合ではない。
「ぼやぼやしてていいのかい?あんた等、急ぎの用事があったはずだろう?・・・大丈夫、こっちもそれなりに人数を揃えてきた。ざっと2倍くらいかねぇ。少なくとも足止めくらいなら出来るはずだよ。」
「有難う、本当に・・・有難う・・・!」
「感謝する暇があったら、早く行きな!この星は滅びなければならないんだろう?」
「ええ、もちろんよ!ギロチン、ここは彼女たちに任せていきましょう!!」
ギロチンは強くうなずいた。そして、女首領に感謝の言葉を継げると、メイデンと共にリアスを追いかけて、ロケットの方向へと去っていった・・・
「ギロチン・・・上手くやっておくれよ・・・さあお前たち!!今までの重納電の恨み、今ここでたっぷりと晴らしとくんだよ!!」
「「「「へい!!お頭!!」」」」
女首領はそう命じると、自らも剣を取り、戦いの渦へと飛び込んでいったのだった・・・
王宮へと入り込んだ二人は、リアス王の謁見の間へとやってきた。全体が石造りのその広間に、二人の足音がカツン、カツンとこだまする。疑似網膜で簡易走査をしたところ、この先にある大きな扉がロケットの搭乗口へとつながっているようだ。
「・・・あの向こうに・・・リアス王が・・・」
「どうやらそうみたいね。さあ、早く向かいましょう」
と、そこへ、二人の足音とは別の足音がコツ、コツと聞こえてきた。女性だった。やはり有機的な鎧を着こんだその人物はは扉の前に立ちふさがり、二人を足止めした。
「・・・」
「貴方は・・・」
「初めまして、切断者の方々。わたくしはこの王都納電管理局長にして、リアス王の姉、ミャコナと申します」
態度自体はおしとやかなものであったが、その眼には明らかに殺意がこもっていた。
どうやらここを通す気は彼女にはないらしい。
「初対面のところ申し訳ありませんが、あなた達をここから先に通すわけにはまいりません。また、生かして返すつもりもありませんので、悪しからず」
そういうとミャコナは、左腰のサーベルを抜いた。サーベルの柄しかないように思えたが、構えた瞬間にそこに塵のようなものがさらさらと集まって、見事に白びかりする刀身を形成した。
「お覚悟をお願いします。切断者殿」
そういうや否や、ミャコナはナノマシン・ブレードを用いてギロチンに切りかかった。彼は高熱度振動剣を構えて受け止めようとしたが・・・
ジャキン!!
ガキィン!と金属音を立ててブレードを受け止めたのは、メイデンの鋼鉄針だった。
「ギロチン!!ここは私に任せて!!」
「・・・メイデン!!」
「早く!!リアスを止めて!!」
「・・・分かった!!」
ギロチンは、扉を蹴飛ばしてリアス王の方へと走り去っていった・・・
それを見届けたメイデンは一旦ミャコナを高鉄針で押し返し、距離を取った。
「貴女、まさかわたくしをたった一人で倒そうなどと考えておりませんこと?」
「ええ、もちろんそのつもりよ」
「己の程度を知らないで戦いを挑むのは、愚者のする行為ですわ。」
「それは前に私の中に入ってきた双子たちに言うべきだったわね。間抜けな双子のおかげで、私は何もかも知ったのだから」
「生意気な・・・小娘っ!!」
ガキィン!!
メルトダウンを必死に止めるファラリス・・・ミャコナと接戦を繰り広げるメイデン・・・そして、リアスを止めに一人追いかけるギロチン・・・
・・・いよいよ決戦は始まった。
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