第23話 海底遺跡都市クザカイ

 翌日。ケセンタウンを襲撃する必要がなくなった銀河連邦の密使たちは、そのまま山を降りてしばらく行くと見えてくる砂浜、ゴ=ストーンビーチに来ていた。

 この海岸線をまっすぐいけば、都(みやこ)へとたどり着くことが出来る。だが、その前に密使たちは、この道中にある洋上の波浪発電所を破壊しなければならなかった。


 密使たちは浜にたどり着くと、膨らませた簡易ゴムボートに乗り込んで海原へと漕ぎ出し、洋上に浮かぶ波浪発電所に船をもやって(つなぎとめて)侵入した。この発電所は無人であった。


「無人なんて珍しいね、生み出した電気をどこへ送ってるんだろう・・・」


 ファラリスが、衛星兵器、重光線装置のビーコンを発電所の中央にある制御室にセットしながら疑問を口にする。

 調べたところこの発電所の生み出す電気量は到底「納電」できるほどの量には届かず、せいぜいこの発電所自体の電力との使用電力に回せるかどうか、くらいの程度であった。


「そもそもなんだってこんな場所に・・・」

「ここしかなかったんですよ。兄貴。これを見てください」


 クノナシの声に気づいて、ファラリスは後ろを振りかえった。調べたいことがあると言って、ファラリスを除いた二人と共に海中へと潜ったクノナシがホロ画面で映し出したのは、波浪発電所の全体図と・・・その下から伸びる長い長い送電ケーブルであった。


「この送電線の方向は・・・海中?」

「ええ。この送電線の方向を見る限り、おそらく”納電”が目的ではないわ。海中にある何かの施設を、動かすための発電所、と言ったほうが正しいわね。」

「海中の・・・施設?」

「それをこれから調査しに行くわよ。ほら、これを付けて」


 ぽん、とメイデンがファラリスに投げて渡したのは、水中行動用覆面ハイドロマスクであった。


 ・・・


 重光線装置のビーコンをセットし終えた後、密使たちは発電所から伸びる海底送電線をたどって、海の底へと潜った。クノナシの旧式バトルスーツも含めて、彼らは覆面をつければそのまま深海にも制限なく潜ることが出来る。送電線をたどるにつれて、より一層海の深さと暗さが増していき、とうとう太陽光が届かなくなってきたので、密使たちは一旦小休止し、暗視装置を作動させることにした。


 この3人の中で人一倍暗視装置の精度がいいギロチンを先頭に、密使たちは送電線をたどって海底へと突き進む。やがて起伏の激しい海底山脈を越えた時、密使たちは開けた空間にたどり着いた。よく見るとそこは盆地のように全体が丸くくぼんでおり、その中には角ばった岩がいくつもで並んでいた。いや、これは岩というよりは・・・


「ギロチン、こ・・・これってまさか・・・」

「・・・間違いない。ここは・・・都市だ」


 正確には、かつて都市だった場所である。相当前に海に沈んだらしく、建物の周りに付着した海藻や生物などが暗にその年月を物語っていた。おそらく、50年前に起きた大幅な海面上昇で沈み、放棄された都市の一つなのであろう。そして、その都市遺跡の中央部・・・普通ならば、納電管理局が置かれている場所へと送電線は延びている。


 XAKAI(クザカイ)。建物にはそう記されていた。その遺跡の周囲は、どういう訳か大きな大きな空気のエアバリアが包んでいた為、近くの遺跡群と比べていまだ現役の納電管理局と見間違えるほどに、きれいな状態を保っていたのだ。そして送電線は、その中へとなおも続いている。


「・・・入ってみよう。」


 空気の層への侵入は思いのほか容易であった。湿気てはいるものの普通に地上と同等の活動ができるので、密使たちは覆面を外すことにした。そしてとうとう、送電線は一つの部屋にぶつかった。どうやらここが目的地のようだ。部屋のドアを開けて中へ入ると、そこにあったのは無数のサーバー群と等間隔のディスプレイ・・・そして、「気象(波浪)制御室」とかかれた小部屋・・・この構造に密使たちは心当たりがあった。ただ一つ違う点は、部屋の中心になにやら細長い箱のようなものが縦に置いてあることだけだった。


「この部屋の構造・・・もしかして・・・!」

「・・・どうやらここが、クノナシの言っていた、もう一つの気象制御センターのようね。構造は山の方と変わりないようだけど・・・」


 メイデンは他の場所を男3人に任せて、制御室周辺を調べてみることにしたが・・・やはり気になるのは、中心の細長い箱だった。ちょうど、すっぽりと入りそうな大きさで、両開きの蓋がついており、部屋のどこにいても視界に入ってくるほど目立っている。まるで、自分がそこにいる、という事を知らしめるかのように・・・


「・・・波浪制御プログラム、海面蒸発量管理システム・・・なるほど、それなりの技術はそろっているという訳ね・・・」


 ・・・て・・・


「え?」


 ・・・あけて・・・


「だれ?だれなの?」


 誰かが語り掛けている。私を呼んでいる。


 ・・・あけて、あけて・・・


「・・・箱から・・・聞こえてくる・・・」


 箱が開けてと呼んでいる。私に開けてと呼んでいる。


「・・・開けて・・・あげなきゃ・・・」


 メイデンは箱からの声に導かれるまま、うつろな目で箱に近づいていった。と、そこへ・・・


「いや~ここも中々とんでもない情報がザックザクですねぇ、メイデンさん。・・・メイデンさん?」


 皆より一足早く戻ってきたクノナシが見たのは、うつろな顔になってぶつぶつと何かつぶやきながら、箱を開けようとしているメイデンの姿であった。明らかに様子がおかしい。


「開けなくちゃ・・・開けなくちゃ・・・」

「メイデンさん?どうしたんですか?・・・メイデンさん!?」


 まさに今メイデンが、両開きの蓋の取っ手に手をかけて箱の中身を出そうとしているその瞬間。クノナシは箱の中身に気づいたらしく、大声を上げてメイデンを制止しようとした。


「駄目だ!!メイデンさん!!その箱を開けちゃだめだ!!」

「・・・え?クノナシ?」


 メイデンは呼びかけられてとっさに正気に戻ったが、すでに箱は開いてしまった。


「・・・ふふ、開けてくれて有難う・・・お馬鹿さん」

「銀河連邦の切断者とて、大したことはありませんね、お姉さま」


 箱の中にいたのは、赤と青の斜めストライプの白いコートを着ている二人の女性であった。二人は箱が空いた瞬間に、メイデンを箱ごと押し倒した。


「あ、あなた達、何者!?」


「ウフフ、ごめんなさいね、ちょっとだけ、体を借りるわよ・・・」

「お姉さま、嘘はよくありませんわ・・・正しくは永遠に、でしょう?」

「あら、そうだったわね・・・」


 二人はメイデンを下に組み伏せたかと思うとそのまま顔を近づけて・・・唇を重ねた。


「!!!!」


 びくびくと体が痙攣する。何かが私の中に流れ込んでいる・・・やめろ・・・わたしが・・・わたしでなくなっていく・・・

 ・・・ごめんなさいね。この体はもう貴方の制御を離れたわ。いい子だから、おとなしくしているのよ?

 貴方は幸せ者よ。仲間が自分の手に掛けられて死ぬところをいっちばんの特等席で見れるのだから。

 やめろ・・・やめろ・・・!!おまえたちの・・・すきには・・・


「どうしたの、クノナシ!!」


 クノナシのただならぬ声を聞きつけてファラリスとギロチンが駆け付けた。一部始終を見ていた彼は絶句している。


「一体、何があったんだい?」

「め、メイデンさんが・・・メイデンさんが・・・!!」


「ふふ・・・ふふふふ・・・」


 そのメイデンはゆらりと立ち上がって、不気味に笑った。いつの間にか、謎の二人の姿は消えていた。


「め、メイデン?・・・どうしたのさ・・・?」

「ふふ・・・どうもしないわよ・・・」


 ジャキン!!


「・・・!!ファラリス、避けろ!!」


 言うが早いか、ギロチンは高熱度振動剣を片手にメイデンと二人の間に割り込み、彼女の不意打ちをとっさに防いだ。振動剣がギリギリと音を立てて鋼鉄針とつばぜりあっている。


「・・・どういうつもりだ、メイデン!!」

「なっ・・・メイデン、一体どうしちゃったんだよ!!」


 見ると、黒い眼をしているはずのメイデンの両目は、それぞれ赤と青のオッドアイになっている。鋼鉄針も太さがまちまちで、明らかにいつものメイデンではない。そして、メイデンは明らかに自分の声と異なる声で口を開いた・・・


「「私たちはもはやお前たちの知っているメイデンではない。私の名前はケセンナ。」サカリナ。」

「「私たちはリアス王の妹にして、微小構成体でできたGBKとXAKAIの自立型制御AI。お前たちの仲間の体を借りて、お前たちを倒す。」」


 メイデンは、リアス王の妹である双子のサカリナとケセンナに、体を乗っ取られてしまったのだ。













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