第15話 三陸王との邂逅
ジークタウンからカーマインタウンへと向かう道は二つある。一つは、申し訳程度に緑が残る山を迂回する幹線ルート。もう一つは、山を突っ切る峠道。地図上では峠道の方が最短であったが、稼ぐ勾配の事を考えれば断然迂回路の方が速くすんだ。しかし今、その峠道にどうにかして浮上二輪を突っ込んで移動しようとしている4つの人影が見える・・・銀河連邦の密使達だ。
「ねぇクノナシ、本当にこの道であってるの?」
「俺は皆さんよりこの星にいて長いんですから、土地勘は絶対の保証付きですよ。」
「本当にここがカーマインタウンへの近道とは到底思えないんだけど・・・」
道中新たな仲間を加えた密使たちは、クノナシのいう「近道」をたどって一路カーマインタウンを目指していた。ただ、この道はクノナシが独自に見つけたルートであり、浮上二輪がようやっと通れるか通れないか、というほどの狭い道であった。しかもあまり使われていないのか、所々が草ぼうぼうなので時折ギロチンが高熱度振動剣で刈り取ってようやく進めるといった有様であった。
「・・・本当にこの道でなければいけないのか、クノナシ・・・。」
「ええ、最近は切断者対策としてこういった山間の峠道とかに、都市警備隊の検問所が良く置かれるようになったんです。僕もついさっきまで大したことないだろうと思って先ほど無理やり突破しようとしたら・・・あの様です。」
なるほどクノナシが密使たちと共有した電子地図には、カーマインタウンに抜ける病の道に敷かれた検問所のマークが記してある。このマークされた箇所を避けて、かつ浮上二輪でも通れるようなルートを考案した結果、今の道が最適なルートと判断した、とクノナシは言うが、無口なギロチンはまだしも残りの二人は不平たらたらだ。
「
「クノナシがいいと言っているのなら、そう信じるしかないわ。」
「あれ、さっきクノナシのことを疑ってた割には、やけに素直だね?」
「もし彼がそうだったら、こんな獣道にわざわざ案内したり、検問の場所が手書きで記されたマップを共有したりないわ。敵のスパイにしては、準備が無さすぎる。」
きっぱりと言い切ったメイデンだったが、クノナシはむしろそれを喜んだ。
「ともあれ、俺に対する疑いは晴れたようですね。良かった」
「・・・楽天的・・・」
「え?」
「・・・」
密使たちは道なき道を進み、そろそろ道の中間点に差し掛かろうとしていた。ちょうどその辺りは山の中にしては開けた場所になっているので、ここで自分たちの位置情報の確認も兼ねて、いったん休憩を挟む事にした。密使たちの基本装備である位置情報機能はクノナシの代からすれば飛躍的に進歩したものらしく、ファラリスが一々機能を説明する度に驚いていた。
「いやあ凄い、こんなに進歩していたなんて・・・」
「と言っても、飛躍的に機能が向上したのはつい最近の事で、それまではクノナシの世代の物に毛の生えた程度の物しかなかったんだよ」
「それにしてもそうですよ。・・・あっ、この機能は何です?」
「それは
ファラリスは何気なくその機能を作動させた。熱源を感知するとその大まかな場所がマップ上で点滅する仕組みになっている。今点滅している点は4つだけ・・・のように見えた。
「・・・なるほど、確かに熱源反応は俺たち4人しか・・・ん?」
画面上に現れた赤い小さな4つの点は密使たちのものとするならば、その比較的至近にある青白い大きな「低温反応」はいったい何を表すのだろうか。異変に気付いたクノナシはすぐさま密使たちを呼び寄せた。
「デカい熱源反応ならまだしも、これほどまでの広範囲の低温反応ってみたことあります?」
「いいえ、私も大陸でこれを見るのは初めてだわ。第一、さっきまで疑似網膜にも引っかからなかったのに・・・」
そして、低温反応のすぐ真下に新たな熱源反応があることをマップが表示する。座標軸に一切のずれはない。低温反応と熱源反応がほぼ同じ場所で発生しているのだ。
「一体どうなってるんだ・・・何かの実験場か何かかな?」
「・・・あっ、もしかして!」
「クノナシ、何か知ってるの?」
「俺がカーマインタウンに潜伏しているとき、風の噂で耳にしたんです。今、カーマイン納電管理局で新しい発電方法を開発しているらしいって・・・」
「新しい発電方法?」
「なんでも、極端な低温と極端な高温との温度差を利用して発電するとか・・・確かそう言っていた気がします。もしかしたらその実験場がここなのかも・・・」
密使たちはこの発電方法を知らなかった。何より電気に頼るシステムから脱却して既に悠久の時が流れているので、単純な構造の発電方法以外に知識がないのは無理もなかったのだ。
「メイデンさん、どうします?まだ実験段階とはいえ発電所には変わりないので、潰しておいて損はないと思いますが・・・」
「・・・そうね。少し寄り道になるけど、全部破壊し終わった後で戻ってくるのも面倒だし、今のうちに破壊しておきましょう。」
かくして、密使たちはいったんカーマインタウンへの道を離れ、温度差発電所襲撃へと向かった。山の斜面をそのまま下るために少々難儀はしたものの、ある程度下ったところで鬱蒼とした茂みの中に隠れるようにして建てられていたそれが視界へと飛び込んできたのは広場から下って間もないころであった。
[熱源・低温同時発生帯確認座標ト一致]
[ソノ他複数の生命反応アリ]
どうやらここで間違いなかった。そして実験場とはいえ発電所なので都市警備隊もそれなりの数が確認されている。
「でも、そこまで強固とは思えないよ。あくまでも都市の警備が最重要だからそこまで人員が割けないんだろうね」
「まあ、どちらにせよそこまで手はかからなさそうね・・・さっさと片付けてしまいましょう。ファラリス、空気振動弾の用意」
「了解。」
標準装備の拳銃に専用のアタッチメントを付けて放たれる空気振動弾は、その名の通り大気中に強烈な振動を与えて大地を震わせる一種の信号弾である。その威力は地震にも匹敵する為、籠城している敵をあぶりだす際にも使われることがあるのだ。
かくして放たれた振動はヴヴヴ、という低い唸り声を上げながら温度差発電所を大きく揺さぶった。
「なんだ!!いったいどうしたというのだ!!」
「地震でしょうか・・・?」
「地震ではない!地震にしては揺れの波長が違い過ぎる!!」
「一旦退避!全員外へ避難させろ!貴賓は丁重に案内するんだぞ!!」
「よし、みんな外へ・・・!!・・・そ、そんな・・・なぜここに・・・!!」
はたして、隠れ発電所からあぶりだされた都市警備隊はわらわらと出てきたが、出てきた先に切断者たちが待ち受けているというのは流石に想定外だったであろう。
「切断者です!!隊長、切断者の襲撃です!!」
「なんだと、切断者が・・・!?どこでこの温度差発電所の情報を嗅ぎつけたんだ…?」
都市警備隊はすぐさま攻撃体制をとるが、密使達は臆することなく交渉する。
「大人しく武装を解除して降伏しなさい。そうすれば命だけは取らないわ。私達は戦いは好きじゃないの」
「黙れ、切断者どもにひれ伏せるくらいなら、戦って名誉ある死を選ぶのが都市警備隊の本懐だ!撃ち方用意!!」
「・・・はぁ。結局こうなるのね・・・」ジャキン!
ため息をつきながらもメイデンはすでに攻撃の準備を始めた。それを合図として他の密使たちもそれぞれ態勢を整える。
キュイイイ・・・
ボウッ・・・
「あ、あの、俺はどうしたらいいんでしょうか・・・」
「クノナシは僕のサポートに回ってくれ。大丈夫、このくらいの数なら何も難しくはないよ」
「で、では、僭越ながらお供させていただきます・・・」
クノナシの準備が整い、いよいよ戦いの火ぶたが切って落とされようとした、まさにその時。
バゴォン!!
突然の轟音が山中に鳴り響いた。何かの発射音だ。発射元は発電所内部から密使たちに向けて放たれたようだ。
「誰だぁ!!まだ撃ち方始めとは言っていないぞぉ!!」
突然自分たちに放たれた攻撃を、密使たちは避けるまでもないと受け止めた。
「不意打ちとはやるようになったわね・・・でもこれで堂々と攻撃でき・・・えっ?」
メイデンは自分の体に起きた異変に気付いた。今自分の下半身部分が、どういう訳か凍り付いていたのだ。それもただの凍結ではない。じわじわと侵食し、いよいよ胴の部分にまで蝕まれようとしている。そしてそれに蝕まれていたのはメイデンだけではない・・・
「・・・ッ!!」
「な、なんだ・・・これは・・・!!」
ギロチンをはじめファラリスやクノナシも謎の凍結現象で体の自由が奪われつつあった。もがけばもがくほど体の自由が奪われていく。
「・・・お兄ちゃんの気まぐれは、どうやら成功したみたいだね。」
「ああ、そのようだな」
この謎の凍結を発生させるに至った攻撃を行った者が発電所の奥から出てきた。二人の服装は前に戦ったクジナの服装とよく似ている。そして片方は威厳があり、どこかで見たような顔の男だった。そう、この男こそがこの三大陸を統べる・・・
「り、リアス王だ!!」
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