ジークタウン(太陽光発電)編

第9話 罪悪感と後悔

 製造番号:半機械人間第2005製造期世代(E世代)・500番台31号

 便宜的通名:ギロチン

 生産方式:遺伝子転写式

 ・・・

 ・・・

 特記事項:特殊暗殺任務仕様への改装済み

 ・・・

 ・・・

 申し送り:任務遂行中に非暗殺対象人物の已む無き殺害で感情回路に異変発生。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 転属先:銀河連邦軍特殊諜報部隊第415班

 転属先責任者:同軍同部隊第415班班長・E世代500番台01号(通名:メイデン)




 ・・・任務中に誤って、民間人を・・・子供を殺してしまった。


 ・・・その時から、俺の思考回路は変な感情を持つようになった。


 ・・・任務を受けて、対象を暗殺するときは、そんな感情は微塵も無かった。


 ・・・そんなものは任務の妨げになるからだ。


 だが・・・ある任務の最中、いつものように夜闇に紛れて、暗殺対象をこの剣で殺そうとした、その時。


「・・・誰?」


 ・・・暗殺対象には、子供がいた。まだ幼かった。


 ・・・たとえ相手が子供であろうと、現場を見られた以上は機密保持のため、消さねばならない決まりだ。


 ・・・俺は子供に向かって、剣を振るった。真っ二つだった。


 ・・・だがその時の、子供の顔が、何が起きたかわからずに死んだ、あの顔が、俺の記憶回路に深く焼き付いた。


 ・・・それからだ。対象を暗殺する度に、あの顔が出てくるようになって、俺が・・・人を切れなくなったのは。


 ・・・殺そうとするたびに、あの顔が、あの何も罪もなく死んでいった子供の顔が、任務第一と設計された俺の優先思考回路を遮って、俺の手を止めるのだ。


 ・・・任務に沿って行動しているはずなのに、何か悪いことを、何かに背くことをしているような、暗殺者が本来感じるはずのない感情がわいてくるのだ。


 ・・・それを、「罪悪感」と教えてくれたのは、メイデンだった。


 ・・・彼女は暗殺任務部隊を辞めた俺が選んだ異動先の班長であった。


 ~~「暗殺任務部隊はこの諜報部隊とは違って、銀河連邦軍の中でもかなりのエリートよ。そんな所から人事異動があるって聞いたときはもうみんな狂喜乱舞よ。絶対にうちに引き入れてやるんだ、何を私が先だ、って感じでね」


「いろいろな部署からの勧誘をまさか全部断って、こんな人員不足が日常茶飯事の諜報班の末端の末端にやってくるなんてね。さすがに驚いたわ・・・」


「でも、私は他の連中とは違って、例え元暗殺部隊所属だったとしても依怙贔屓なんてしないから。あくまでも班長は私よ。それだけは覚えておいてね」


 ・・・了解した。班長。


「それと、ここは貴方の前の職場と違って、できる限り戦闘を行わない任務が中心になっているけれど、いつもそう上手くいくとは限らない。どうしても、戦闘が避けられない場合もあるわ。その時は、あなたにも活躍してもらいたいんだけど・・・さっきの”罪悪感”の件もあるし、まずはそれを乗り越える精神鍛錬メンタルトレーニングを私や部下のファラリスと一緒にやってもらうわ」


 ・・・ああ、よろしく頼む。


「しばらく私たちは任務はないし、同じE世代同士、まあ気楽に行きましょ」~~


 ・・・彼女やファラリスの協力もあって、俺は罪悪感による無意識な行動制限をどうにか克服し、前のように高熱度振動剣で問題なく人を切れるようになった。


 ・・・だが、それでも完全にぬぐい切れたわけではない。その証拠に、俺は罪悪感を少しでも紛らわせるために任務中にもかかわらず、を優先することが多くなった。


 ・・・幸いにも二人は俺の行動に理解を示しており、むしろ協力してくれることも多いが、そのせいで任務完了が大幅に遅れてしまうこともある。二人には迷惑をかけてばかりだ。


 ・・・今度の惑星安楽死任務も、任務の初めから振り回してばかりだったが、二人は嫌な顔一つせず俺に協力してくれた。二人にはいくら感謝してもしきれない。


 ・・・そんな二人のおかげで俺はようやく自分を取り戻せたはずだったのに、俺はまた、記憶回路にあの時の光景を蘇らせてしまった。・・・そして、それはより鮮明に、新しい記憶となって、俺に刻まれたのだ。


 ~~


 ――バキュン!!――


「・・・か・・・かはっ・・・ぐはっ・・・」


 ・・・!!


「な、なんだ!今の銃声は!」

「・・・!あいつよ、あいつが打ったのよ!!」


 ・・・!!!!


 ――キュイイイ・・・――

 ――ブウゥン!!――


 ・・・死んだはずだと思っていたが、まだ息があった。奴は最後の力で、この村の真実を知っているこの子・・・タキを打ち抜いたのだ。


 ・・・よりにもよって奴はこの子の心臓をぶち抜いた。流血が止まらない。待っていろ、今助ける。どこまでできるか分からないが出来る限りの応急処置をしなければ。


「お・・・お兄・・・さん・・・」


 ・・・喋っちゃだめだ。流血がひどくなる。気をしっかり持て。絶対にお前を助ける。必ずお前を助けて、お前を待つ親族の所へ・・・。


「いい・・・んだよ、もう・・・嘘は・・・つかなくて・・・」


 ・・・


「僕・・・全部、知ってたんだ・・・生き残った・・・村人は・・・もう・・・僕しか・・・いないんだ・・・って・・・」


 ・・・


「僕を・・・・悲しませない・・・・為に・・・・嘘・・・・ついたんだ・・・よね・・・・」


 ・・・


「もう・・・・・いいんだよ・・・・・僕だけ・・・・・生き残っ・・・・・ても・・・・・」


 ・・・ダメだ、死ぬな。生きろ。生きるんだ。必ず助ける。生きろ。生きろ。頼む。


「やっと・・・・・・みんなの・・・・・・所・・・・・・へ・・・・・・」


[生体反応 消失]

[死亡確認]

[死亡原因 出血多量]


 ・・・ああ。


 ・・・もしも。


 ・・・俺が。


 俺がこの子から目を離さなければ。俺がこの子の後ろに立っていたら。あいつの腕を両方切っていたら。あいつを管理局の下にけり落とさなければ。俺がこの子をここへ連れてこなければ。・・・この子の代わりに、撃たれていたら。


 ・・・この子は、死ななかった。


 ・・・こうして、罪悪感は俺の思考回路に再び大きな存在感を示して帰ってきた。


 ・・・「後悔」という新しい感情も引き連れて。


 ・・・俺はまた、罪も無き子供を




 ・・・殺してしまった!!




 ~~


 ・・・ン・・・


 ・・・ロチン・・・


 ・・・ギロチン!!・・・


「・・・!!」


 ギロチンは一瞬自分が置かれている状況を忘れていた。水力発電所を破壊して立ち去ろうとしたときに襲ってきた都市警備隊と戦っている最中であった。本来のギロチンならそういう状況には陥らない。

 それほどまでに、タキを死なせたことへのギロチンの後悔は大きいものであったのだ。


「何やってんだギロチン!!戦闘中だぞ!!」


 ファラリスは浮上戦車を相手に己の超熱伝導波で応戦し、都市警備隊を戦車ごと丸焼きにしている。そしてメイデンも、己の両手から生やした針で浮上騎兵を次々と串刺しにしていた。

 だが、ギロチンはなぜか今回に限って攻撃をしなかった。いや、出来なかったのだ。


「く・・・くそう・・・引き上げだ!ジークタウンに戻るぞ!!」


 ギロチンの目の前で倒れているのがこの部隊を率いる隊長であろう。この男を切るには今が絶好のチャンスである。


 キュイイイ・・・


「・・・はっ!!せ、切断者・・・・!!」

「よし、ギロチン今だ!ぶった切れ!!」


 エネルギーを充填した剣を今、高々と頭上に掲げる。このまま振り下ろせば、目の前の敵は真っ二つだ。だが・・・


 ~「・・・誰?」~


「・・・!」


 ~「お・・・お兄・・・さん・・・」~


「・・・!!」


 ・・・ギロチンの剣は、振り下ろされなかった。


「・・・くっ!」


 ビシュッ!!


 グサァッ!!


「ぐえっ・・・・・・・!!」


 見かねたメイデンは、部隊長に向かって自分の腕から高速鉄針弾を放ち、相手の胴を貫いて見事にとどめを刺した。既に都市警備隊は全滅し、わずかな生き残りは撤退した後であった。


「ギロチン・・・」

「・・・」


 得物を静かに降ろしたギロチンは、何も言えなかった。対してメイデンは、さも何か言いたそうに大股でギロチンに近づく。


「・・・メイデン、やっぱりギロチンはまだあの事を」

「黙りなさい」


 いつもとは口調も雰囲気も違うメイデンに、ファラリスは全てを察して思わず引き下がった。


「・・・メイデン」




 パァンッ!!




「あぁ・・・今のは・・・痛いよ・・・」


 メイデンは、自分が言いたいことをこの右平手打ちに全て集約して、ギロチンの左頬にぶつけた。そして・・・




「銀河連邦軍諜報部隊第415班所属、E世代第500番台31号。先の戦闘で著しい任務遂行能力低下が認められたことにより、班長権限で貴様を・・・当班より除隊の上、追放する」

















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