4話
私はリモコンを取り、テレビをつけた。音のないこの空間が嫌になってしまったから。いや、
そんな時、特徴のある声が耳を
声色から精彩さが滲み出ていて、瞳には内に秘めた激情の片鱗が薄らと光を放っているのが
この子こそあの役に相応しい。そう本能が囁いた。すぐさま私は手帳を取り筆を走らせた。名前はN。都内の専門学校を卒業したらしい。パソコンを開き、その専門学校のHPにアクセスをした。
そこには演劇のリハーサル動画が載せてあり、私はそれを見ることにした。彼女は主役ではなく脇役だった。台詞も2つくらいで物語を円滑に進めるための潤滑油のようなものなのだが、彼女は違った。演劇ではあまり起こしてはいけないことを起こしてしまっていて、それは主役より明らかに目立ってしまっているということだ。
なにかに取り憑かれたように演技を…いや、これは違う。これは演技じゃない。彼女自身だ。
彼女はただ台詞に自分の想いを乗せて表現しているだけだった。
私は唖然として、気がついた時にはリハーサル動画はもう終わっていた。とうとう見つけてしまった。ニヤけが止まらない。この作品が作れるかもしれない。だが、もしこの子が来てしまったら私の映画そのものが変わってしまうかもしれない。
演者の演技で物語の展開変えるということは稀にあるが、これは映画を、物語を根本から変える可能性がある。
概要欄には卒業生たちの進路がずらりと並べられていた。そこには彼女の名前も。私は衝動に駆られ、彼女が所属している事務所に電話をかけた。
映画のオーディションに来てもらいたいということを伝え、折り返しの電話が来ることを願った。明くる日、事務所から電話がかかってきた。OKだということだ。オーディションの会場と時間を伝え、その日は何事もなく過ぎ去っていった。
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