3話

 ある時、けたたましい稲妻が私の頭に鳴り響いた。


 目の前が突然真っ白になり、耳鳴りが鳴り始め、記憶がゆっくりと消えてなくなる音がした。 ノイズが聴こえ、モスキート音のような音がだんだんと大きくなっていき視界が急に暗転をした。


 そして映像が流れる。


 何も咲いても建ってもいない場所で、あるひとりの女性がダンスをしていた。その女性は踊るたび、年老いていき、最期は灰になりながら美しく空を舞って消えていった。

 灰は風に運ばれ宙に還り、星となる。燃え尽きた女性は空でただひとつ輝く星となり、永遠の希望の象徴となるのだ。


 多分それはきっと私の理想の映画で、私自身だった。


 きっと。

 

 私はその記憶が失われる前に筆を書き進める。何日も寝ずに記憶を仔細しさいに探り続け、ようやく脚本を完成させることが出来た。


 そしてその女性は女優の中へ落とし込まれる。オーディションで彼女は見事に役になりきり、私の前で高らかに表現をした。だが所詮、それは彼女を真似ただけであってその女性ではない。


 分かっているつもりだがそれでもできる限り記憶の中の彼女に近づけていたい。何人もの人を見てきたが未だに見つかることがなかった。


 時間が淡々と消え去っていく。日が経つ事に、忘れたいこと、忘れたくないこと、記憶の層が段々と地下深くに沈んでいき、太陽のことが、月のことが、彼女が、深層の奥の奥までゆっくりとゆっくりと、化石になっていくのがわかる。


 灯火が消えていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る