最下層
あれからしばらく経って、再び
もう二度だからかすっかり慣れてしまったが、それでも今の俺たちが転ければそれが命取り。一段一段を慎重に踏んでいかないといけないため、まったく気は抜けなかった。
「次は何が出てくんだろうな。暗闇と真っ昼間ときたら、次はデパートかなんかか?」
「……ねえだろって言いたいが、言い切れないのが怖いところだな」
未だ見えぬ次の階層に対して、くだらない想像をし始めた
反射的に否定しかけたが、ここは
……次の階層か。
なら俺が望むのは次が最後であること、そして戦闘の必要ないエリアであることの二つだ。
先の階層で助かったのは、正直運が良かったとしか言い様がない。
一匹一匹が強力な
たった一度でも攻撃を食らっていればそれだけで致命傷。一度でも足を止めていれば確実に追いつかれていたし、加速中に妨げる何かがあればそれで終わりだった。
死のタイミングなど考えればきりがなく、どうして生き残れたのか不思議でしょうがない。
こちとら日頃の行いなど良いとは言えないし、運が上がる
そうは言っても、決して無事とは言い切れない。
いくら
何より、もうこれ以上負傷できないという圧迫感が余計にプレッシャーを生んでくる。
俺も
……こんな時、
「……おっ、おい
大きく声を上げる
最後の一段まで気を緩めずに階段を降りきってから、そうしてようやく広がる空間に光で照らす。
境の役割をしていた白い靄はなく、かといって特別明かりがあるわけでもない。
懐中電灯で照らしきれない大きな部屋。そこには無数の像やら何やらが、正面真ん中に一本の道を作るかのように並べられていた。
「……うっへー、すげえ……」
「……ああ。凄いな、これは」
圧巻な景色に気圧されたのか、開いた口が塞がらずに情けない驚きが出てしまう。
俺と変わらぬ背丈ほどの物から、台座だけで優に超える高さのもの。
何で出来ているかは一目で分かるのは僅か。人型だけではなく、モデルすら定かではない像も少なくない。
見たことすらない文化の結晶。
何が貴重なのかを理解すら出来ないのに、その存在感に打ちひしがれ、胸の内にある好奇心を強く刺激してくる。
まるで海外の大きな博物館に紛れ込んだかのようだと。
我ながらそれっぽく表せているなと場違いにも感心しながら、周囲の観察を続けていく。
「……どれも精巧、生き物をそのまま固めたみたいなもんばかりだな」
「売ったら高そうだなぁ。……持って帰れねえかな?」
「無理だろ。こんなでかくて重い物、正直邪魔になるだけだ」
諦めろと言ってやれば、
懐中電灯の光を浴び、艶やかな光沢を見せる黄金像。本物の金なのかは知らないが、持って帰って売ることが出来ればさぞ懐が暖まることだろう。
だが、それは今の俺達には関係のない話。
危ない危ない。正直俺もちょっと欲しいとか思ってたし、ぐっと堪えなければ。
欲に負けそうになる心を律するため、なるべく像に近寄らないよう道の中心を歩いていく。
首を曲げず、ただ真っ直ぐを心がければ気は逸れにくい。……まあ隣で諦め切れなさそうな奴もいるが、流石に無理なのは分かっているだろうし気にすることはないだろう。
あるかもしれない罠に気をつけながら、無心で通路を進み続ける。
そしてしばらく歩き、周りの空気になれてきた頃。左右に聳える大きな竜の像を通り過ぎ、長い道は終わりを迎える。
最初に抜けた無骨な扉とは違い、いかにも先に何かがありますと言っている大きくて荘厳な扉。
肌を、心臓を、そして脳が。
軽く触れるだけで本能という芯を揺さぶる圧倒的な緊張。そんな僅かな情報だけでも、この先は間違いなくやばい場所なのだと感じ取ることが出来た。
「……すんげえやばそう。ボス部屋か?」
「……さあな。だが、さっきより楽ってことはなさそうだ」
扉の雰囲気に負けまいと、無意識に剣の柄に触れながら冷静に観察する。
上質な墨を固めたような黒い扉にはノブは付いておらず、見渡してもそれっぽいスイッチがあるわけではない。
既視感のある図形が特徴的ではあるが、後はいかにもな装飾が施されているだけ。正直開け方なんてないんじゃないかと思えてしまうくらいには、何もなく立ち塞がっている。
……正直、このまま開かなければいいと思ってしまう自分もいる。
この先がやばいのは何となくわかってしまう。そしてもし開いてしまえば、もう後戻りは出来ないことも理解できることだ。
進まなければ死、されど進めば地獄。
偶然は二度も訪れず。どちらを選んだとしても、恐ろしい結末から逃れる事は出来ないだろう。
だからこそ選択を。後悔してもいい道を選ばなくては──。
『──
平坦で無機質な音声。それが突如として部屋へ木霊したのは、
「──はっ?」
「な、なんだっ!? 何かやっちゃったか!?」
欠片も予想してなかった音声に身を跳ねさせながら、すぐに剣を抜いて警戒する。
一部ノイズの混じった音。何を言ってるのかこれっぽちも聞き取れなかったが、それでも意味を持った文章だって事は何となく察することが出来る。
こんなこと、
「おい火がっ!!」
扉の端に掛けられた蝋燭に灯されてく光。
下から上へ。左右同時に最下部から次々と光は昇り、やがて最上部の天井近くまで架け橋は繋がれる。
そして灯り終えた瞬間。目の前に聳え立つ扉は重苦しい音を立てながら、地面を引き摺って奥へと吸い込まれていく。
決意すら定まらないまま、それでも待ったなしだと見え始める光景。
六本の柱に支えられ、壁に灯る青炎に照らされた部屋。明らかに他とは違う、ここが終わりだと言われれば信じられる特別な雰囲気を醸している。
──だが今は、あれを見てしまったからには、そんなことはどうでもよかった。
「──おい……、何だよあれ」
だが当たり前だ。あんなものを見せられれば誰だってそうなるし、命が掛かってなきゃ今すぐにでも全速力で背を向けたいのが一般的な感性なのだろうから。
かつて実在したとされる、遙か彼方たる神話の生き物。
遠き歴史の伝説──
「──あれは、
──
それがこれから乗り越えなくてはいけない、超常たる
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