邪神ちゃん 困惑す 2

 これであと思うことは、サラや友人たちのことだ。

 とくにサラはずっと近くにいた。この病が感染っていたとしても不思議ではない。

 なんとか連絡をとらねばと、部屋を歩く。

 痛みと、血が足りぬせいか身体はふらふらとして、うまく動かない。

 

 いやこの状態のまま学園内を歩き、病を振り撒くのも悪手だ。なにか方策を考えねば──

 

「アルカちゃん、大丈夫?」

 

 そう思い、ドアノブから手を離した瞬間、サラが扉を開けていた。

 目の前で私の姿を見た彼女の表情は驚きの色に染まっている。

 

「サラ、近寄ってはならぬ。病が、病が感染るやもしれぬ」

「えっと、アルカちゃん」

「すまぬ、す゛ま゛ぬ゛、わだしが、どこかでぇ……」

 

 サラの顔を見た安心感もあったのだろう。涙があふれ、声もいつもと変わった声になってしまう。

 

「おちついて、アルカちゃ──」

「魔法をづがっでも、ぐすっ、な、なおらぬのだ。サラなら、まだ治るかもしれぬからぁ……」

 

 サラが私の涙でべしょべしょになった顔を手で拭い、抱きしめてくれる。

 柔らかさと、暖かさと、ふわりとした花のような香りが鼻をくすぐる。

 

「大丈夫だから、アルカちゃん。それ、女の子には自然なことだから、ね?」

「ふぇ?」

 

 それからのサラの動きは早かった。

 私が動き回ったせいであちらこちらに着いた血を掃除し、着替えを用意し、そして──

 この事態がなんたるかを教えてくれた。

 

「もー、いきなりだからびっくりしたよアルカちゃん。でもアルカちゃんでもあんなに泣くことあるんだね」

「わ、忘れろぉ……」

 

 もはや私に残されたのは恥以外何もない。

 よもや、自然の出来事にあそこまで体裁を見出し、泣き喚くだなどと……

 きっとこの邪神の精神は肉体に大きく影響を受けているのだ。そうに違いない。

 

 今の私は、ベッドに篭って丸くなっている。体調が悪いのもそうだが、あまりの恥ずかしさでサラの顔が見られない。

 あんな情けない姿を見られたのは、サラが初めてだ。邪神の弱みを握るとは……今代の勇者はなかなかやるな。

 

「ぐぬぬ……ごわごわする……」

「我慢しないと、また下着汚しちゃうからね」

 

 結局私の手元に専用のものはなかったため、サラのそれを借りている。

 まさか人間の女に毎月このような苦行があるとは思いもしなかった。

 尚更なぜあの駄女神は私を女にしたんだ、と思う。まぁきっと困らせるためなのだろうが。

 

「いつも元気なアルカちゃんがお腹いたいーって言ってたからまさかねって思ったんだ」

「よ、予想がついていたなら教えてくれておいてもいいじゃないか……」

「違ったら大変だし……だから先生に報告してすぐ帰ってきたでしょ?」

「それはありがたかったのだが……」

 

 思い返せば思い返すほど恥ずかしくなる。

 なんであぁまでべそをかいていたのだ、私は。

 恥ずかしさのあまりに布団の中でごろごろと転がってしまう。

 

「初めてなら仕方ないよ。でも、授業できちんと習ったでしょ? 身体のこと」

「興味がなかったから聞いておらなんだ……」

「もー、ちゃんと聞いてなきゃダメだよ?」

「うむ、反省しよう……」

 

 布団で覆われた世界の外で、バサバサと音が聞こえる。

 

「ねぇ、アルカちゃん。にゃんくろーは?」

「あ……」

 

 使い魔のスキルレベルはまだIから上げていない。よって意思疎通は近距離で一方通行だ。

 つまり、にゃんくろーは忠実に使命を果たすために奔走中であり、引き返させることはできない。

 

 後日母からはお叱りと祝いの言葉が込められた手紙が届いたのだった。

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