邪神ちゃん 手に入れる 2

「アルカちゃん、何それ」

「これか? ちょっと特殊な夜光石でな。右目の代わりにするのだ」

 

 夜、入浴まで全て終わらせた私はテーブルの上でランドルフからもらった夜光石と睨み合っていた。

 この石以外に必要な材料はいままでちまちまと集め続けていた。私の手持ちのお金が少ないのはそういう理由もある。

 

「さて、始めるか」

 

 机の上に材料を全て並べる。

 まずは銀砂で円を描き、そこに聖水を垂らして固めていく。

 次に黄金とミスリルを混合した砂で魔法陣を描けば基本は完成だ。

 両手で夜光石を包み込む。

 

欠けたるものの、adfy欠けざるが如しwiad

 

 両手を中心に白い魔法陣が浮かび上がる。それが下に描いた魔法陣と重なり合い、本来の術式を描き出す。

 そこから光の壁が立ち上がれば、両手の中で夜光石がどろりとその姿を失う。

 隙間から漏れ出したそれは、魔法陣の中央に蟠り、すこしづつ姿を整えていく。

 

「わー、何かすごい綺麗」

 

 傍でみていたサラから、感嘆の声が漏れる。

 この光景だけみれば確かに美しいといえるだろう。なにせ術式自体は奇跡系第7階級のもの。

 指定した魔力を保有した物体を、術者の体の欠損した部位に変換する術式だ。

 ただ、両手で包み込めるほどの体積しかできず、材料もなかなかに高価なのが難点。

 しかし私のように目の欠損であれば、複合的な価値を持つ便利な魔法だ。

 

 銀砂、そして黄金とミスリルを混合した砂が溶け、混じり合って魔法陣の中央へと集まっていく。

 しばらくの後、すべての材料が中央に吸い込まれた頃、そこには人間の眼球が一つできあがっていた。

 

「で、できあがったものがこれだ」

「うう、ちょっと怖い……。でもこれアルカちゃんの目の色と違うよ?」

「仕方あるまい。目の色は材料の夜光石に左右されるからな」

 

 私の掌の上で転がる眼球。その瞳の色は薄く燐光を灯しているかのように見える薄青色だ。

 軽く出来を確認するも、問題はなし。術式も問題なく付与されている。

 

「よし、サラはしばらくこちらを見ぬ方がよいぞ」

「う、うん」

 

 サラが私から視線を外した事を確認して、眼帯をはずす。

 ぐいと瞼をもちあげ、空虚となった眼窩を空気に晒す。

 そして、私は出来上がった眼球をその虚へとねじ込んだ。

 

「ぐっ」

 

 僅かな痛みと共に、新たな目が身体へとつながっていく。

 頭の中を何かが這い回るような感触に耐えていると、サラが背中を撫ででくれる。

 その優しさに甘えながら耐えていると、しばらくの後ついに右目に光が戻った。

 

「よし、成功だ」

「よかったぁ……」

 

 背後のサラが安心したのか、私に身体を預けてくる。

 

「とはいえだ、この目は完璧な物ではないし人の目を引くからな。結局は今まで通りだ」

 

 外しておいた眼帯を再びつける。

 そう、光は見えるのだ光は。ただし、魔力の光・・・・が。

 この目は魔眼の一種で、それを再現したにすぎない。普通の光を捉えるにようするには、材料が足りなかったのだ。

 だが魔力の光を捉える魔眼は特殊で、眼帯で遮ったとしても見通すことができる。

 暗闇だろうがなんだろうが、魔力の流れを全て把握できるのだ。

 魔法使いとしては垂涎の一品だろう。

 

「えー、綺麗だったからもっと見ていたかったのにぃ」

「仕方ないな……。これでよいか?」

 

 残念そうに文句をいうサラに押され、再び目を晒す。

 サラはそんな私の顔をしげしげと眺めている。

 

「あ、何かに似てるなーって思ったら、たまにいる白い猫ちゃんの目だ!」

 

 な……。邪神の魔眼を指して猫の目だと……?

 

「アルカちゃん……にゃんこ……あ、アルニャン!」

 

 勝手に変な命名をしたサラはその名前を連呼しながら私の頭を撫でてくる。

 まて、その猫の耳を模した何かはどこから出してきた。

 

「まてまてまて、サラ。落ち着け」

「? 私は落ち着いてるよ、アルニャン。ほーら被りましょうねー」

 

 妙なまでに力強いサラに押さえつけられ、頭に猫耳を装着される。

 一体なんの辱めだこれは!

 

「ほら、アルニャン。にゃーんってにゃーんって」

 

 目の前では両手を顔の横に構えて猫のポーズをするサラ。

 彼女がそういうポーズをするのは勝手にすればよいし、可愛いと思うのだが、なぜ私にやらせようとするのか。

 

「アルニャンではなくアルカだ。それに私は邪神だと──」

「邪神でも可愛いものは可愛い。可愛いは正義なんだよ!」

 

 妙なことを力説されたあげく、力づくで手を猫のポーズにされる。

 

「ほら、ほらにゃーんって」

「……にゃーん……」

 

 私はサラの猫にかける熱情に敗北した。

 そう、決してサラに負けたわけではない。決してだ!

 

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