邪神ちゃん 手に入れる 1
「アルカ・セイフォン。お客様がきておいでですよ」
とある日の授業中、私は唐突に呼び出しをされた。
私を訪れる人間など知れてはいる。まさか目のことで激怒した母が遥々来たのではあるまいな。
戦々恐々としながら、案内役に連れられ、学園内を歩く。授業の真っ只中だけあって、廊下はとても静かだ。
「それでは、話が終わったら授業に戻るように」
たどり着いた一室の前で、案内人はそれだけいうと、去っていってしまった。
ううむ、誰が来ているかわからぬ以上なかなか怖いものがあるな。
もし母であれば、真っ先に頭を下げねばならぬ。
そんなことを考えながら、ドアノブをひねる。その先にいたのは──
「や、ひさしぶりだね。邪神ちゃん」
「なんだ、お主か」
グリザリア侯爵、ランドルフだった。母であったことに内心安堵する。
はて、こやつはこやつで一体今更何をしにきたのだろうか。
「はいはい、ドア閉めて座って座って。僕もあんまり長居はできないんだ」
促されるままに戸を閉め席に着く。すると、私の目の前になにやら装飾を施された箱がおかれた。
「やっと手に入れたよ。なかなかいい値段がしたけど、それは僕からの詫び料ってことで」
何かあったかと疑問に思いつつ、蓋を開ける。そこには握り拳より少し大きいぐらいの夜光石が収まっていた。
感じられる魔力の波長からして、10年以上は間違いなく月光を浴び続けたもののようだ。
なるほど、高価なもの故に此度は己が手で運んできたというわけか。
「おお、これで問題ない。感謝するぞランドルフ」
「喜んでもらえてなによりだよ。それで、これで何をするんだい?」
「しれた事。目を作るのよ」
私の言葉にランドルフは不思議そうな表情を浮かべている。この術式に関してはまだこの世界では出回っていないらしい。
材料に難点があるが、手に入れてしまえばなかなか便利な方法ではあるのだがな。
「なるほど、そりゃー頑張って手配した甲斐があるってもんだ。邪神ちゃんは物知りだね」
「うむ、邪神だからな」
思わず胸を張って答える。その姿をランドルフはどこか満足した表情でこちらを見つめていた。
「しかし、この一件について、君のお母さんには散々怒られたよ。いやー母は強しってほんとだね」
「そうか、手紙では平静を装っておったが、怒りはそちらに向いていたか。すまぬな」
「いやいや、為人を考えずに彼を入学させたのは僕だからね。まさかそこまで仲が悪いだなんて思ってもみなかったから」
バツの悪そうな顔でランドルフが答える。それはそうだろう。彼の判断で入学させた人間が、神の加護の持ち主の片目を潰したとなれば大問題だ。
幸いながらお互いが自領の人間だから騒ぎを抑えつけることができている。だが仮にこれが他領の人間同士であれば、下手すれば戦争沙汰だ。
彼にとっては戦争になることを考えれば、我が母に叱責されるほうがよっぽど平和だったということだ。
「なに、既に奴は2回私に敗れている。次はそうそうないだろうよ」
「そう願うね。一応彼には次やらかしたら放逐するよとは言ってあるんだけど」
まぁそれでも奴のことだ、いつか不満が爆発して絡んでくる可能性は否めない。
「おっと、そろそろ僕は次のところに行かないと。またね、邪神ちゃん」
「主も息災でな」
「そうそう。制服似合ってるよ。じゃーね」
まるで捨て台詞のように、ドアを開けながら曰う。全く失礼なやつだ。
だが、これで目的のものは手に入った。今日の夜にでも早速行動するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます