邪神ちゃん 報告される

「それで、首尾のほうは?」

「えぇ……ほんとに言わなきゃだめ?」

 

 薄暗い部屋の中、そこでは邪神ちゃん会議と銘うたれた会合が再び開かれていた。

 中央に立たされたサラは側から見れば、まるで被告人やいじめの対象の用にも見える。

 が、周囲からの視線は羨望であり、周りの者は皆、彼女の答えに期待していた。

 

「こ、こんなことバラして怒られないかなぁ……」

「邪神ちゃんのことですもの。きっと気にしませんわ」

「で、でもだいぶ選ぶとき恥ずかしがってたし……」

 

 それを聞いて金髪碧眼の、以前メーラと呼ばれていた少女がのけぞり変える。

 何かの発作かとサラは心配そうな目で見つめるが、メーラの表情は恍惚そのものであった。

 

「あぁ、その目で見たかった……。慣れない下着姿で恥じらう邪神ちゃん……。ふぉー!」

「うわっ……きもちわるっ……」

 

 そのままごろごろとベッドで転がるのを赤髪の少女、ニャルテが汚い物をみるかのような目でつぶやく。

 

「想像してみなさいな! 両手で肌を隠し『み、見るな……』と恥じらう邪神ちゃんを! あぁもう、この感覚を何と申せばよいのでしょうか!」

「……分からなくもないけど、メーラの反応と動きが気持ち悪い」

「あなた。時折思いますけど、結構毒舌ですわね」

 

 いつもの二人の掛け合いはいつもより激しい。それもこれもメーラがサラの答えに期待しているからでもあるのだが。

 

「サラ、答えを渋るのはわかりますわ。友情ですものね。でもここで断ったらどうなるかおわかりで?」

 

 一通り騒ぎ倒して落ち着いたらしい。すっとメーラの目が細まり、所在なさげに佇むサラを捉える。

 その声にサラは思わずびくんと肩を揺らしてしまう。

 

「え……あ、あの……」

 

 メーラの家は伯爵家だ。対してサラは平民。スキルが少々優れていたから入学に選ばれただけの人間だ。

 そんな人間が自領ではないとはいえ、伯爵家に目をつけられれば、今後どんなことになるなんて──

 

「邪神ちゃんへのお菓子の供給、止めますわよ」

 

 メーラの言葉は意外なものだった。サラは内心いじめられるとかそういうのじゃなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 が、すぐに懸念に思い至る。お菓子の供給を止められた邪神ちゃんが、どうなるか……

 

「正直虫歯が心配なので、少し緩めていただいたほうが……。あ、いえ。かなりアルカちゃんがしょんぼりしちゃうので……」

 

 そう、意外にもアルカは甘味が好きなのだ。学園の食事は無償で提供されているものの、やはり節制されている。

 その中でごく稀に付いてくる甘味は、アルカにとって今まであまり堪能する機会のなかったものだ。

 結果、アルカは甘味の虜になり、その反応が見たいがために彼女たちにお菓子を貢がれているのだった。

 サラはアルカがお昼を食べたあと、こっそりメーラやニャルテがお菓子の袋を渡してくれるのを日々楽しみにしていると知っている。

 そして、お菓子がない日のがっかり具合も。

 だからこそ、心の中で判断がゆらぐ。彼女のプライベート中のプライベートとも言える下着の色を暴露してまで甘味の供給を維持するか否か。

 サラにとって今までにない判断の崖に立たされていた。

 

「なんなら私の下着の色を邪神ちゃんに言っていただいてもかまいませんわ!」

「誰が喜ぶんだよ、そんな情報」

「うう〜……」

 

 サラは悩む。そして天秤にかける。邪神ちゃんの秘するべき下着の色と、彼女が甘味で喜ぶ姿とを。

 

「何なら次回、邪神ちゃんのお洋服を整える際に出資もさせていただきますわ」

 

 がたんと天秤が一気に傾いた。サラは悩みながらも結論を出し、恐る恐る口にだした。

 

「黒と赤、紫と白と……薄い青色のちょっとえっちぃのです」

「────!!」

 

 もはや無言でメーラが背後に倒れる。その表情は正に感極まったといわんばかりだ。

 周囲もその回答にざわついている。

 

「素晴らしい……素晴らしいですわ! サラ! 私に大きな決裁権があれば金貨にも等しい情報ですわ!」

「ちょっと本気できも……。今度から着替える時、別々にしてくれる?」

「あなたのぺらっぺらの下着なんて見て楽しいわけないでしょうが。邪神ちゃんだからいいのですわ!」

 

 メーラの反応に、サラも本当に言ってよかったんだろうかと若干後悔をし始める。

 とはいえ、言ってしまったものはもうどうしようもない。

 

「ね、ね、黒ってどんな感じ? 柄は? 柄は?」

「あの邪神ちゃんがちょっとえっちぃのって……。ぐ、具体的にどんな?」

「邪神ちゃん結構派手なんだぁ……」

 

 周囲からも質問や色んな声が飛んでくる。サラはそれら全てに答えきれず、まごついてしまった。

 そんな彼女を助けるように、メーラがぱんと一つ手を打った。

 

「最初からすべてそんな答えを得ても面白くないでしょう? ここから先は各々でというのはいかがかしら」

「なるほど、これから自力で探って情報交換というわけですね!」

「観察が捗るぅ」

 

 メーラの提案に思い思いの声が返る。ここにいる皆、なんだかんだでアルカに惹かれた人間ばかりだ。

 あのニャルテすら、異は唱えていない。彼女もちょっとは気になっているのだ。

 

「では決まりですわね。次回の議題は邪神ちゃんの服について、各々考えてくること。いいですわね?」

 

 誰も異議を唱えることなく、会議と銘打った邪神ちゃんの暴露大会は終わった。

 だが、この会議の最終目標は"如何に邪神ちゃんを可愛らしくするか"である。

 当然下着程度では話はおわらない。

 こうして本人からは隠されたまま、アルカの受難は確定していくのだった。

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