邪神ちゃん 奮戦す 2

「あんた、意外に何色でも似合うもんだね」

「そうですね……。ちょっと羨ましいかも」

 

 あの後、私は次から次へ持ち込まれる下着類に音をあげた。

 そして結局、二人に見繕ってもらうことにしたのだ。

 だが、その選択はある意味間違いだったのかもしれない。

 なぜなら、こうして着せ替え人形と化してしまっているからだ。

 

「あたし的には黒系統と赤系統で占めとくのもいいと思うがね」

「でも、この薄い色のもあった方が意外性がでそうです」

『私は〜、さっきの薄青のスケスケのとかいいとおもいまーす』

 

 そして、その着せ替え人形大会にはまたしても神託が繋がってしまっていた。

 神託の無駄遣いにも程がある。この阿呆女神は今すぐ全世界の巫女に土下座をするべきだ。

 

「も、もうよいだろう。度々じろじろと眺められると、さすがに恥ずかしいものがあるぞ」

「その恥じらいをもっと初めからもってたら、こんな事にならなかったんだよ?」

『もじもじ恥じらう邪神ちゃん、か〜わ〜い〜い〜! ね、戦神。きちんと録画できてるよね?』

『いや、ワシにいわれてもな……。あれ、本当に中身は邪神か?』

 

 しかもいつの間にいやら戦神まで増えている。奴もどうやら巻き込まれた口らしい。少しは困れ。

 戻り次第、記録物は全て破壊せねばなるまいな。 

 

「な、そろそろ終いにしよう。重要なのはもう、わかったから」

 

 半ば懇願するようにサラを見やる。この邪神に懇願をさせた人間なぞ、サラが初めてだ。

 さぞかし良い勇者に育つだろう。

 

「そうだね、そろそろ時間もあれだし……」

「色は濃淡合わせて買えば使い勝手がいいだろう。あ、勝負用に派手なの一枚はいれときな」

 

 なんだ、人間は勝負をするのに派手な下着をつけるルールでもあるのか?

 私の意志はよそに、店主とサラがあれこれいいながら選んでいく。

 結局選ばれたのは黒に赤、紫と白と薄青の合計5着だった。

 最後にあのクソ女神が言っていた奴が選ばれていたのが気に食わん。

 が、さすがにあの女神も彼女らに干渉まではしていないだろう。ならば選ばれたものとして大人しく受け入れるしかない。

 

「あの嬢ちゃんのとこのだから、割引いとくよ。大銀貨5枚だね」

「う、うむ……」

 

 割引いて大銀貨5枚とは、結構値が張るではないか。今までグリザリア侯爵からもらっていた小遣い金は殆ど使っていなかったらよかったものの。

 まさか下着ごときに大枚を叩くはめになるとは思いもしなんだわ。

 

「よかったね、アルカちゃん」

 

 それもサラの笑顔があるならば、まだよしか。

 布ぶくろに詰められた下着類を眺め、ため息をつく。

 明日からこれをつけねばならないのか……

 

「またキツくなったりしたら来な。名前は覚えたから、今度からは直接来ても開けてやる」

「ありがとうございます。ほら、アルカちゃんも」

「か、感謝するぞ……」

 

 どこか納得はいかないが、店として融通を効かせてくれるということならば礼は言おう。

 だが着せ替え人形にした恨みは忘れんからな。

 

「サラは、いいのか?」

「私も待ってる間に一着買ったよ。私まだサイズがないからあまり選べないんだー……」

 

 サラはそう言って自分の胸を撫で下ろす。確かに私と比べると些か扁平ではあるようだ。

 

「なに、人間の成長なんてすぐくるさ。あんたもまた来なね」

 

 店主に見送られ、二人で店を出る。

 雨はまだしとしとと降り続いており、二人で慌てて雨具を被る。

 

「買ったものはちゃんと雨具の中にね」

「まぁ、折角のものだからな。早々に雨で汚すのも気が咎める」

 

 ぱしゃぱしゃと水音を跳ねさせながら、街を駆け抜ける。

 あまり学園外に出たことはないが、人の少ない街並みは少し新鮮だ。

 繊細な糸のように降り続く雨に追い立てられながら、私たちは学園へと戻った。

 

 

 

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