邪神ちゃん 成長す

「おっしゃー! 白ー!」

「きゃー!」

 

 子供の声と、バタバタとした足音が廊下に響く。

 どうせまたいたずら盛りの子どもがスカート捲りだなんだとやっているのだろう。

 私達のクラスでも一時期流行っていたからな。

 

 もちろん、私が被害を受けることは一度もなかった。

 一度、度胸試しのつもりか突撃してきた者はいた。が、寸前で腕を捻り上げてやってからは誰も挑んでくるものはいない。

 代わりにとでもいうか、サラはよく被害にあっていたがな。なにせあれだけおっとりしているのだ。狙われるのも理解できる。

 

 あれから授業に訓練にテストにと追われるように生活している間に、2年の月日が経っていた。

 この年になると、授業も本格化して細かく分かれるようになったし、イベントごとも増えた。

 今までは感嘆の声と共に眺めるばかりであったのを、今度は驚きの声を上げさせる側になったというわけだ。

 

「ね、アルカちゃん。また武技の授業教えてくれる?」

「かまわんぞ。それに、どうやら周囲から私たちはペアのように思われているようでな。サラがいなければ私は一人放り出される羽目になる」

 

 サラとの仲も相変わらずだ。彼女はこの2年間で大きく成長した。魔法なぞ、私を除いて学校内最高位である第五階級までたどり着いている。

 そこまで至れれば将来有望。どこぞの貴族のお抱えになるも、研究者として名を馳せるも自由自在であろう。

 

 私の方は表立って行使はしていないが、地道に駄女神の声に悩まされながらもスキルを上げた。

 おかげで邪神時代の力の一片ぐらいは取り戻したといえよう。

 

 だが、私にとっての問題はそこではない。

 成長すれば伴うもの。そう、肉体の成長だ。

 身長は余り伸びていない。何なら今やサラの方が高いぐらいだし、クラスメイトの大半に身長で負けている。

 

 そして体格。不運といえば失礼になるのかもしれないが、私の肉体は女性らしく成長してしまった。

 去年の中頃など、日に日に女性らしくなる己の姿に恐々としたものだ。

 今や諦めているから、もはやどうとも思わぬが。

 

 二人で話しながら修練場に向かう。今日はペアでの模擬戦闘。今までの馴れ合いのような打ち合いではなく、本気でやるもののようだ。

 体を動かすのは楽しい。邪神時代とはまた違った感覚で体が意思に従って動くのは何とも言えない感覚を覚える。

 その最中に同級生の視線が突き刺さるのは余り好みではないが、これも修練の賜物と思えばなんとやらだ。

 

「でも怖いなぁ……。今日の授業、本格的にやるんでしょ?」

「なに授業の本意は、どこまで動けるようになったかの確認みたいなものだ。私のような事にはなるまい」

 

 そう右目を軽く叩きながら言う。

 この眼帯姿ももはやクラスに馴染んだもので、女子連中なぞ見かければ気安く『邪神ちゃん』と声をかけてくれる。

 邪神としての権威が若干下がっている気はするが、人に馴染めるというのは良いことだと思うようにしよう。

 

「うーんでも、やっぱり武器を向けられると、思わず目を瞑っちゃうなぁ……」

「人には向き、不向きというものがある。相手は私だ。気負わずにやるがよい」

 

 やがてたどり着いた修練場。今日の場所はいつもと違い、闘技場のように区切られた場所だ。

 既に到着していたクラスメイトたちの視線が集まる。いつもの事だ。

 

「邪神ちゃん、ぎりぎりだよー」

「惰眠は限界まで貪るタチでな」

「邪神ちゃん、もうちょっと髪梳かさないと……」

 

 あっという間に囲まれ、髪をイジられる。

 彼女らはクラスメイトの中でも特に構いたがりだ。

 賑やかな会話に包まれながら、戦闘の授業が始まった。

 

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