邪神ちゃん 対決す 2

「こら! 何をやっている!」

 

 猿が頷くのを満足げに眺めていると、側から教師の声が掛かる。

 こちらの騒ぎを聞きつけたらしい。だが、私の姿を見るや安堵の息をついていた。

 

「またお前らか……。まぁいい、言わなくてもわかる。取り敢えず足と剣は外しなさい」

 

 教師の言葉に従って、剣に込めていた力を緩め、足を退ける。

 

「アルカ君、挑発は程々にするようにな。ザメル君は前回の事も含め、反省するように」

 

 さらに突っかかろうとする猿を教師が間に入ることで引き離す。

 悪態をつきながら端へと向かっていく猿に対し、私は複数の女子の群れに迎えられた。

 

「アルカちゃんすごい!」

「あいつ、いっつも態度が悪くて気に食わなかったの。ありがとう!」

「前の事もあったから、ちょっと痛いめにあえばいいのにって思ってたんだ!」

「女の子の顔に傷付けるだなんてサイテーよね!」

 

 その群れの中にはサラが押し流されて溺れていた。

 思わず手を伸ばし、救出する。もみくちゃにされていた彼女は涙目だ。

 

「あ、アルカちゃん大丈夫だった?」

「見ての通りな。奴も少しは反省しただろう」

 

 私に傷がないことを確認したサラは、一人胸を撫で下ろしていた。

 

「また前みたいな事になったらどうしようってヒヤヒヤしてたんだよ」

「私も学習するからな。最悪魔法で気絶でもさせるつもりだったさ」

 

 辺りからは女子の華やかな声が響く。先ほどの対決の感想を言い合っているらしい。

 あまり見せられた物ではなかったと思うのだがな。

 とはいえ、私たちは忘れがちだが齢は10前後なのだ。目の前の事件に湧き立つのも致し方ないだろう。

 遠目に猿を観察すれば、奴は相手にしてくれる者が誰もおらず、虚空へがむしゃらに剣を振るっていた。

 あれでは何の鍛錬にもなるまいに。だが、教師もそこで相手をしてやるほど優しいものではないらしい。

 他に垣間見える有能そうな生徒につきっきりだ。

 

「ねぇねぇ、なんでアルカちゃんは魔法も武技もできるの?」

「そうそう、貴族の中でも名前聞いたことないんだけど……。どこ出身なの?」

「それよりそれより、今度魔法教えてよ魔法!」

 

 やがて再び女子たちが私に群がってくる。

 空気を察したのか、サラは少し寂しそうに去っていってしまった。

 

「魔法も武技もIは保有しているからな。それに私は邪神だ、これぐらい造作もない」

「邪神? うーん……名前は似てるけど。あ、じゃあ邪神ちゃんだ!」

「ねぇねぇ、どこからきたのー?」

 

 女子とは往々にして賑やかなものとは知っていたが、巻き込まれるとこうも姦しいとはな。

 いや、悪いわけではない。今までこうして人に囲まれるということはなかったからな。

 少し新鮮なだけだ。

 

「ノーラン領のグリザリア侯爵の伝手だ。良くも悪くも、あ奴と一緒の生まれでな」

「だーからいっつも突っ掛かってるんだ」

「えー、男子って好きな子の事いじめるっていうからそれじゃないのー?」

 

 そんなのではないと思うがな。あれが好意の表れだとしたら……、吐き気がするな。

 サラのような美しい子に言い寄られるならまだしも、猿に擦り寄られる趣味はない。

 見た目がどう変わろうと、私は邪神。そしてアルガデゾルデは男性神だ。

 

「何にせよ、あれで当面絡んでくることはないだろう。奴に何かされたら言うがよい。虫ぐらい払ってやる」

「邪神ちゃん、かっこいー!」

「ねぇねぇ、一回手合わせしようよー!」

 

その日は武技の授業の間、彼女たちの間をたらい回しにされるはめになった。 

 

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