邪神ちゃん ぶっ放す 3

『あらやだ、濡れ場?』

 

 少々潤んだような瞳で見つめてくるサラを眺めていると、再び脳裏に声が響く。

 こいつ、実は暇なんじゃなかろうか。人の生活こうしてを覗き見ているとは、一度審判神に裁かれればよいのに。

 思わず顔を顰めてしまう。と、サラがその表情に気付いたのか、一歩後ずさってしまう。

 

「あ。ご、ごめんね……」

「いや、問題ない。いつもの頭痛だ」

 

 頭痛の種なのだから、間違いではないだろう。今度は一体何の用だ。

 

『いやぁ、ちょっと何してるかな〜って覗きにきたら、良い雰囲気になっちゃってて……。はっ、これが息子に彼女ができた時の感情!?』

 

 誰が息子だ、誰が。

 もういい、こちらは無視してサラのフォローをせねば。

 ここで気まずい空気になってしまうと、今後の生活に差し支える。

 

「大丈夫?」

「大丈夫だ。それより、驚かせてすまなかったな」

「う、ううん。お陰でちょっとコツを掴めたし……。これからも教えてくれる?」

「勿論だ」

「ありがとう!」

 

 安心したのか、サラが両手を上げて首元に抱きついてくる。

 柔らかい感触とともにふわりとミルクの様な、そして同時に花のようにも感じられる香りが鼻腔をくすぐった。

 彼女の突然の行動にどうしたものか、と悩む。

 結果、おどおどと彼女の腰に手を回すことにした。

 

『ほら、ここはもっとぎゅーっと抱きしめるの! 遠慮なんかいらないから、ほらほら!』

 

 その間もどこぞの女神からの会話が頭に響く。こいつ、いっそ出歯亀神にでも改名すればいいのではなかろうか。

 そもそも、他の世界の管理の仕事もあるだろうに、何でいちいちこちらを覗き見てるんだ。

 

「おーい、教え合いをしろと言ったがじゃれ合いをしろとは言ってないぞ」

「す、すいませぇん!」

 

 こちらがうんうんと考えている間に、見ていたらしき教師から声がかかる。

 その言葉に慌ててサラが体を放す。それを少し残念に思うのは、私が間違っているのだろうか。

 

「授業の本意から外れてしまったな。何か見たい魔法はあるか? 私が使えるものであれば見せよう」

「えっと、じゃあさっきの雷の魔法。もう一回みせて」

「よかろう」

 

 鎧を案山子に被せ、距離をとって向き合う。

 

荒れ狂うTaranau──」

 

 呼吸と共に、外気に漂う魔力を体内に取り込む。

 そして魔力を体内を循環させることで、マナへと錬成。

 術式の象徴たる魔法陣を構築、マナを流し込む。

 何時もならば一瞬で終わらせる工程を、サラに見せるためにゆっくりと行う。

 指先の魔法陣に紫の光が灯り、僅かに溢れたマナが紫電となって弾けてゆく。

 

雷光garw

 

 雷光が地響きの如く、腹に響く音と共にひた走る。

 鎧にかけられた防御術式は、その威力を弱めることすらできずに貫かれた。

 少しマナを込めすぎたせいか、魔法が終わった後も体の周りに紫電が纏わりつく。

 

「どうだ、少しは参考になったか?」

「ほわぁ……」

 

 振り向けば、サラはどこか惚けたような顔をしてこちらを見つめていた。

 

「サラ?」

「え? あっ! か、かっこいいなって!」

『きゃ〜! 邪神ちゃん、かぁっこい〜い!』

 

 待て待て、混ざるな。ややこしい。

 歪んだ眉根を揉みほぐす。この駄女神はしばらく意識から外しておこう。

 

「うむ、それは良いが……。参考になったか?」

「え。あは、あはははははは」

 

 これは誤魔化して笑っているな。

 

「いいか、雷に属する術式はだな──」

 

 そんな彼女の顎を逃さぬように引っ掴む。

 自分でも流石と思わんばかりの笑顔で私はサラにこんこんと魔法についての解説を行ったのだった。

 

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