邪神ちゃん 装着す
「ふむ、やっと戻ってきたか」
数日たったある日の夜、寄宿舎の窓辺には黒猫がやってきていた。
そう、ランドルフの元へ走らせた使い魔だ。
窓を開けていれてやると、一声鳴いて入ってくる。
その背中には何やら包みが括りつけられていた。
「ご苦労だったな」
「あ~、にゃんくろ~!」
包みを取り外していると、サラが黒猫を回収していく。
一体いつの間に名付けたのやら。
サラの抱擁を受け入れてる猫は置いておいて、包みを広げていく。
中身は手紙と……
「これは、眼帯か」
黒のパッチに紐がついたものがいくつか入っていた。
内側には鎮痛の術式が込められ、表面には微細な魔石がちりばめられている。
なるほど、少しは気を使ってくれたということだろう。
手紙を読めば、ザメルの行ったことへの謝罪と私が頼んだものの捜索を行う旨が記されていた。
「これは助かるな。いつまでも包帯では手間もかかる」
包帯をほどき、眼帯に付け替える。
付け心地は悪くない。触れてみても、うまい具合に傷跡ごと隠せているようだ。
「にゃんくろ~。ほ~らにゃ~ん」
サラはベッドに乗せた黒猫を抱きしめながら、その頭をくりくりと撫でまわしている。
我が使い魔ながら少しも嫌がる素振りを見せないのは、どうしたものか。
よもや喉など鳴らしてなどいないだろうな。
「あれ? アルカちゃん、それどうしたの?」
サラが私の視線に気づいたのか、こちらに振り返る。
猫は未だその胸に抱いたままだ。少しは抵抗しろ、使い魔。
「私を送り出した領主からの品だ。どうにも奴を送り出したのも領主のようでな」
「そうなんだ。……でも似合ってるね!」
「それはうれしい言葉だな。それでその……使い魔を返してほしいのだが」
「にゃんくろ~?」
それは、私にもそう呼べということか。使い魔は使い魔であって、決してそのような名前では……
「まだそ奴には仕事がある。じゃれるのは構わないが……」
「そやつ、じゃなくて、にゃんくろ~」
心なしか、抱かれた使い魔も澄まし顔に見える。
なぜ我が使い魔が勝手に名づけされた挙句、そっちに懐いているのだろうか。
「……にゃんくろーを渡してくれ」
「えー……今日はにゃんくろ~と一緒に寝ようと思ったのに……」
「にゃんくろーにはまだ仕事があるのだ、だからだな」
サラは使い魔、にゃんくろーを離してくれる気配はない。
それどこか、より一層強く抱きしめている。
「にゃんくろ~帰ってきたばっかだよ? ちゃんとお休みさせてあげなくちゃ」
つまり彼女は、意地でもにゃんくろーと一緒に寝たいのだろう。
別段新たに使い魔を生み出しても良いが、管理も面倒だ。
サラにはいつもお世話になっている分、ここで折れておこう。
「わかった、好きにするがよい」
あきらめてベッドに座り込むと、隣のベッドからはやったーという声とくるくるといった猫の鳴き声が聞こえてくる。
あの使い魔、完全にサラに懐いておるな。
しかしここでただで引き下がっていれば、邪神の沽券に関わる。
一つ反撃だけはさせてもらおうではないか。
「サラ、一つ言っておくがな」
「?」
「使い魔と術者は感覚の共有ができるのを忘れるなよ」
すまし顔で言ってやった。
「アルカちゃん、えっち!」
途端、サラから枕が投げられて顔面に当たる。
その後もサラの機嫌は、私が感覚共有をしないと約束するまで悪化したままであった。
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