邪神ちゃん ぶっ放す 2

「よし! 飛び跳ねるNaiddwr

 

 サラがかざした手から魔法陣が描かれ、そこから握りこぶしほどの水弾が案山子に向かって飛ぶ。

 水弾は鎧の案山子に当たると、心地よい水音を響かせながら散っていった。

 

「ふむ……これも防御術式に弾かれているな」

「うぅ~、威力ってどうやって出すのぉ……」

 

 サラは魔法が得意、と言っていただけあって使用できる術式は多様だった。

 が、生来の優しい性格が災いしてか、何分威力に乏しい。

 先ほどから5種類ほどの術式を試してみたが、どれも第一階級の防御術式を貫通するに至っていない。

 

「威力はイメージと体内で転換したマナをどれだけ魔法陣に込めるかでだな」

「でも込める量間違えると暴走しちゃうんでしょ?」

「そうだな、だが実は暴走一歩手前な方が効率が良かったりするぞ。なに、一度限界まで試してみるといい。暴走しても止めてやる」

 

 サラが私の言葉に目を瞬かせた。

 なに人間の魔力の暴走程度、治める方法はある。

 

「そんな事、できるの?」

「少々肌に触れる必要があるがな」

 

 その言葉にサラは少々顔を赤くしながら両手を振る。

 

「そんなの全然いいよ! じゃ、じゃあ本当に止めてね?」

 

 サラが再び元の位置に戻り、右手を前に掲げる。

 

飛び跳ねるNaid──」

 

 今まで以上のマナが浮かんだ魔法陣に注がれる。

 

「ね、ねぇまだ大丈夫?」

「大丈夫だ。集中して、制御の手綱を離すなよ」

 

 うーんと唸りながら更にマナが流れ込む。

 やがて、魔法陣が青白い雷光を帯び始めた。暴走の前兆だ。

 

「そのまま、的を見ていろ……」

 

 冷や汗を流しながら魔法を維持するサラに近づき、その右手に触れる。

 そしてそのまま私は、彼女の首筋に唇を這わせた。耳朶に響く、僅かな水音。

 

「えっ!? ひゃあ!?」

 

 それがきっかけとなって制御されたマナが荒れ狂う。

 が、首筋から余剰のマナを吸い上げ、込められた魔力を触れた手で押し込める。

 

「よし、放て」

「──dwr!」

 

 二度目の水弾は甲高い音を立てて、案山子の鎧を跳ね上げた。

 

「び、びっくりした! びっくりしたよ、アルカちゃん!」

「触れると言ったではないか」

「触れ方ぁ!」

 

 結果的に魔法は成功したのだから、良いと思うのだが。

 なぜかサラは驚きのほうが勝ってしまったらしい。

 とはいえ、外部からの魔力制御は先の方法が一番なのだ。

  

「だが見ろ。今度は見事に防御術式を貫いたぞ」

 

 吹き飛んだ鎧を回収してみれば、その中央には大きな凹みが残っていた。

 防御を貫通して鎧に直接魔法が当たった証拠だ。

 

「そうだけど、そうだけどぉ……」

 

 成果が出たというのに、サラは膨れたままだ。

 

「今ので感覚はつかめただろう。他の魔法もその感覚を参考にするとよい」

「……アルカちゃんの唇の感触しか覚えてないんだけど」

「ふむ、ならばコツをつかむまで付き合ってやろう」

「うう……」

 

 再度上げたサラの手に右手を添える。

 注入するマナの量さえ気をつければ、何も恐れることはあるまい。

 右腕を通し、サラのマナの流れを掴む。

 しばらくすると、魔法陣が先ほどと同じように青白い光を帯びる。

 これは、また暴走するか。そう思い首筋に口を寄せたところ……

 

「──飛び跳ねるNaiddwr

 

 今度は暴走することなく魔法が発動し、水球が鎧を打つ。

 

「できたではないか」

「アルカちゃん、顔近いよ……」

 

 しばし私たちはお互いの距離を保ったまま、見つめ合ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る