邪神ちゃん ぶっ放す 1
『てれれれてってって〜。邪神ちゃんはさらにレベルが上がった』
ある日の授業前、窓ぎわでぼーっとしていた時に声が響く。
また例の奴か。周囲に目をやってから、自身のステータスを確認する。
得たポイントは4。
これで魔法のスキルも上げられるし、目的だったスキルもとれる。
『邪神ちゃん、ちょーっと見ない間にやさぐれちゃってぇ』
片目を潰されでもしたら、気にしないつもりでも少しは心がささくれ立つというものだ。
というかこの阿呆神は今まで一体何をしていたのやら。
『そりゃーこの世界の仕込みに、他の世界の安定を図って……。休みなんてありゃしない。あぁ〜神様ってブラック企業!』
まぁそれについては同情するがな。何ぶん私一人この世界で楽をしているのだから、少々心苦しいものがある。
とはいえ、とはいえだ。この状況に持ち込んだのもこの駄女神自身。
いやならさっさと元に戻せばよいのだ。
『いや〜部下のお願いぐらいは叶えないとね。これが上司ってもんよ』
この状態まではお願いした覚えはないがな。というか私の願いを叶えるだけならば、どの神かと役目を一時的に入れ替えれば済んだ話だ。
それをここまでややこしい状況にしたのはお前だ。
『まぁまぁ。でも折角の機会なんだから楽しみなよ。女の子の体にしてあげたんだしぃ。同室の子とあんなことやこんなことできちゃうよ?』
……何を言っているんだこいつは。少しでもまともな会話ができると思って、耳を傾けた私が悪かった。
肉体が男か女かでいえば、元の性別通りの方が過ごしやすかったに決まっているだろう。
この体になってから大股で歩くなだの、座り方だの足を開くなだのと、鬱陶しいことこの上ない。
淑女たるもの云々なんて話は背筋に悪寒が走る。
『あれ、もしも〜し。聞いてる〜?』
最早そちらに意識を割くのもバカらしい。それにそろそろ次の授業のために移動をせねばなるまい。
「アルカちゃん、まだいたの? ほら、一緒にいこ?」
いつの間にやら近くに来ていたサラが、私の手を取り歩き出す。
彼女には本当に世話になっている。右目を未だ覆う包帯も彼女が都度都度巻き直してくれているのだ。
それくらい自分でできればよかったのだが、試した結果、顔面ぐるぐる巻きの化け物が出来上がっただけだった。
以来、私は諦めて彼女にお願いすることにしている。
『青春の清らかな友情。あぁっ、浄化されそう!』
創造神が浄化されてどうするのだ、と脳裏に浮かんだ。だが、そういうのを伝えると妙に喜ぶのがこいつだ。
何も聞かなかったことにしよう。
手を引かれているうちに、校舎を出て修練場に着く。
そこには魔法の授業の標的にでもするのだろうか、入学試験の時と同じように幾本もの棒が突き立てられ、その上に鎧が被せられている。
「今日の魔法学は実技だ。基礎は座学で押さえたが、暴走などをしないように」
教師を中心に生徒が輪になる。その中にはザメルの姿はない。まだ謹慎中なのであろうか。
「魔法は教えた通り、集中力とイメージ力が命だ。そうだな、例えば……アルカ・セイフォン。何でもいい、鎧に魔法を放ちたまえ」
いきなりの名指しに少々驚く。たしかこの教師は実技試験の場で顔をみた覚えがある。
あの時の再現をしろということだろうか。立ち上がり、鎧の案山子と相対する。
人さし指で案山子を指し示す。
「
一瞬。指先に魔法陣が浮かび上がると共に、紫電が轟音と共に鎧を貫く。
いきなりの出来事に大半の生徒が頭を抱えたり、目を瞑っていたりしている。
辺りには空気の焼けた嫌な匂いだけがのこった。
「あー、今の魔法の説明を。アルカ・セイフォン」
「雷撃の術式。自然系に属する第三階級の魔法だ。イメージは指先から対象に向けて全てを貫くように。天の槌とされる稲光を制御することが肝要だ」
私の言葉に辺りがざわつく。それもそのはず、雷は自然系術式の中でも最も制御が難しい。
失敗すれば辺りどころか自分にも被害が出かねない。そんな魔法だ。
「いま言われたように、術式の制御、イメージが重要だ。しばらくペアを組み、自身の得意な術式をお互い評価したまえ」
私も輪に戻り、サラを探す。ペアと言われても正直私は目の怪我の事もあり、学園では遠巻きにされている。
実質私が組めるのはサラしかいないのだ。
「すごいね、アルカちゃん!」
戻ってきた私を笑顔のサラが受け止める。
その顔は無邪気な喜色に染まっていた。
「魔法は比較的得意だからな。サラも確かそうだったろう?」
「それでもまだ第三階級は使えないよ。いいなー、どうやって覚えたの?」
「覚えるもなにも、邪神だったころの手なぐさみよ。サラなら直ぐにでも使えるようになる」
手を取り合って空いている案山子へと向かう。
さて、サラの魔法は何であろうか。
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