邪神ちゃん ダメージを受ける 3
戻ってきた私たちを迎えたのは、喧騒だった。
あの後も授業は継続されていたらしい、皆修練に励んでいるのが見て取れる。
「アルカ君、大丈夫だったかな?」
今更輪に入れず、手持ち無沙汰にしていた私たちに教師が話しかけてくる。
「うむ、命に別状はない。右目は欠損らしいがな」
「そうか……。今日の授業は見学に留めておくといい」
教師は私の言葉に顔を残念そうに顰めると、再び生徒たちの中に戻っていく。
「サラも授業に戻るが良い。私のことはそう気にしなくても大丈夫だとも」
「でも……」
「成績にも響くだろう。私のことは置いておくがよい」
サラが生徒たちの一群から離れたところに陣取る私を、名残惜しそうに振り向きながらその群れへと入っていく。
「しかし、面倒なことよ。ランドルフ辺りに代替を頼んでみるか」
包帯の上から抑える右目に感触はない。
代替する手段はあるが、学生の身分かつ裕福でもない身には到底手が届かぬ。
ここはランドルフが私と同じく推薦した猿のせいであるのだから、少しくらい要求しても構うまい。
やがて、授業がひと段落ついたのか、バラバラに打ち合っていた生徒たちが教師の周りに輪となって集まる。
「たとえ木剣でも誤れば、命に関わる。身につけた力をいたずらに振り回さないように!」
「「「はい!」」」
生徒たちの返事に満足した教師は、大仰に頷くと修練場を去っていった。
それに合わせて生徒も三々五々に散っていく。武技の修練が終われば、昼食の時間だ。
私も食堂に向かうべく立ち上がると、サラがこちらへ駆けてくる。
「ザメルって子、謹慎になったんだって」
「そうか、あまり興味はないな」
あやつがどうなろうと、どういう道を歩もうとそれはあやつ次第。
私がどうこういう話ではないだろう。
「アルカちゃんは、その……怒らないの?」
「怒ったところで目が生えるわけでもあるまい。それに木剣が目に当たったのは偶然だからな」
「優しいんだね、アルカちゃん」
優しいとはまた違うと思うのだがな。私はただ自身の肉体にもザメルにも、そこまで興味がないというだけだ。
ああ、だがこの身が傷つくと母が悲しむであろう。それを鑑みれば少々腹が立たぬこともない。
とはいえ、この件に関する処分は学園が下すもの。私が手を出すのは過ちだろう。
「しかしすまないな。迷惑をかける」
「ううん、役に立てて嬉しいよ」
いくら邪神とはいえ、視覚を片方失えば様々なことが覚束なくなる。
特に片目では距離感が失われる。サラに手を引いてもらっていなければ、私は壁にぶつかったり階段を踏み外したりと散々なことだっただろう。
食事を終え部屋に戻れば、魔法が切れ始めたのか僅かに右目に痛みが宿った。
医師からもらった薬を飲んでベッドに腰掛けて、これからの事を考える。
まずはランドルフへの連絡をするか。
「
使い魔召喚の魔法を行使する。呼び出されたのは私と同じ黒毛に金眼の猫だ。
「わ、アルカちゃん魔法使えるんだ」
「初歩的なものだがな。使い魔は珍しかったか?」
「見たことなかったよ。うわ〜ふわふわ」
サラが机の上に呼び出された猫を抱き抱え、撫で回す。
この使い魔の魔法では、使い魔の指示なしの状態での自由意志までは縛れない。
彼女に抱かれて心地よさそうにしている使い魔を一瞥して、その間に文を認める。
内容はちょっとした探し物だ。月の魔力に10年以上当てられた、握り拳大の夜光石。
少々特殊な条件故に、学園に所属したままでは探すこともままならないため、ランドルフを頼るのだ。
勿論、高価な物であることは理解しているため、対価も提示してある。
これさえ見つかれば、右目の問題は完全に解決するのだ。それぐらいは惜しむまい。
「これをランドルフ邸まで届けよ」
手紙を筒状にし、それを使い魔の胴に結える。
不恰好であるが致し方あるまい。本来ならば鳥系統を呼べれば早いのだが、スキルがたらぬ。
結ばれた文を確認し、使い魔がするりとサラの腕から抜け出る。
サラは残念そうな顔をしているが、この使い魔には仕事があるのだ。
窓を開ければそこは4階の高さにも関わらず、使い魔は軽い足取りで宙へ飛び出した。
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