邪神ちゃん 入学す 3

「──よって、諸君らの学びと努力と友情を我々は歓迎する。しかと励むように」

 

 講堂の中央、教壇に立った偉そうな人物の演説が終わる。

 周囲の人間はその人物への拍手をしきりに行っているが、私には全く興味のないことだ。

 大勢の人間による拍手は大波のごとくうねって聞こえる。その中で一人何もせず立ち尽くす私は、明らかに異端なのだろう。

 

 やがてその大波が収まり、静寂が訪れる。

 次いで壇上に立つのは教師の一員であろうか、壮年のふくよかな女性だ。

 

「新入生の皆さんには、これから教室で説明を受けていただきます。教師が先導するのでそれに従って移動してください」

 

 その言葉に伴ってぞろぞろと人の群れが動いていく。私とサラもその動きに倣って学園内を黙々と移動した。

 周囲からは不安と期待からか、話合っている声も聞こえてくる。

 なんだか賑やかな生活になりそうだ。


 板張りの廊下をぐるぐると回り、古めかしい一室にたどり着く。

 人がそこに吸い込まれている事を鑑みれば、ここがこれからの教室ということだろう。

 中の講堂はすり鉢型で、中央にある教壇に向かって下がっている。

 高さがそれなりにあることから考えるに、この学園の規模は相当であることが予想できる。

 

「それでは皆さん、入学おめでとうございます。各自空いている席に着いてくださいね」

 

 教壇に立つ若い女性、彼女もきっと教師だろう、が辺りを見回しながら言った。

 言われるがままに席に座る。隣は当然サラだ。

 教壇をみつめる彼女の表情は、真剣そのものだ。

 

「既に部屋には行かれたと思いますが、皆さんはこれから相部屋で寄宿生活を行なってもらいます」

 

 知っての通りの事だ。寄宿生活に慣れはまだないが、彼女となら仲良くやっていけるだろう。

 勿論目的を忘れた訳ではない。精々利用してできるかぎりレベルとスキルを高めさせてもらおうではないか。

 

「細かなルールは部屋に備え付けの本に記載してありますが、大きなルールは三つです。一、お互いの不満なところはできるだけ話し合いで解決すること。二、授業の妨害はしないこと。三、決闘は認めますが、ルールは遵守すること」

 

 なるほど、なかなかに自由な校風らしい。決闘ができるなどと知ったら、件の猿などすぐにふっかけてきそうなものだな。

 

「遅れましたが、私がこのクラスを担当するマリアナ・アルマイアです。長い付き合いになると思いますので、どうか覚えてくださいね」

 

 一礼する彼女の姿は教師でありながらも、どこか可愛らしい。

 肩から落ちた栗色の髪束を背に戻しながら姿勢を正すところは大人らしさがあるのだが、どこか子供っぽさを否定できない。

 

「何か質問のある人はいますかー?」

 

 その声に誘われてぐるりと辺りを見るが、手が上がる様子はない。

 なに、詳しいことは部屋にあるらしい本を確認すれば済む話だろう。

 

「それでは次、授業について話していきますね──」

 

 私は今後の生活のためにも、教師の言葉にしばし耳を傾けることにした。

 

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