邪神ちゃん 入学す 2

『てれててってってって〜。邪神ちゃんは友達を得てレベルがあがった〜♪』

 

 もはや何度目かを数えるのも嫌になる、おちゃらけた声が脳裏に響く。

 それにしても握手程度でレベルが上がるとは随分と大盤振る舞いだな。

 これも神の加護スキルの影響なのだろうか。

 

『ほらほら、スキル早くとってね〜』

 

 言われるまでもない。

 サラが握手したまま固まる私を不思議そうに見ている。それを尻目に目標のスキルを探しだす。

 が、残念ながら欲しかったスキルはコストが2、今では届かない。

 仕方ない、次点のスキルを獲得しておくか。

 

「ど、どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。少し考え事をしていた」

 

 無事にスキルを取得し、同時に何処かへと繋がっていた感覚が途切れる。

 まったく神託の無駄遣いはやめてほしいものだ。しかもあれはこちらからは繋げられないのだから余計タチが悪い。

 

「それより、入学の式典とやらがあるのだろう? 最初から欠席というわけにもいくまい」

「そ、そうでした。急がないと!」

 

 バタバタと慌てて佇まいを正す彼女はどこか小動物のようにも見える。

 身長の低さか、それともその身動きからか。可愛らしいという言葉を費やすのならば、彼女にこそふさわしいだろう。

 

「アルカさんも、えっと、ごめんなさい!」

 

 何をするでもなく彼女を見ていた私の服を、サラがテキパキと整えていく。

 ふむ、やはり女ものの服装はよくわからぬ。今まではランドルフのところのメイドが色々と手を出していたからな。

 いつまでもサラを頼りにするわけにもいかぬし、これからはそれも自分でできるようにならねばなるまいて。

 

「い、行きましょう。遅刻したら大変です」

「そうだな」

 

 二度目の握手は彼女から、僅かに引っ張られる感触と共にだった。

 慌ただしく廊下に出てみれば、同じようにぶかぶかの制服をきた人間がわらわらと一箇所を目指して歩いている最中だ。

 恐らくこの流れに従っていけば、式典の会場にたどりつけるだろう。

 

「よ、よかったぁ……」

 

 手を繋いだままの小動物がほうと安堵の息をつく。

 

「あ、アルカさん、ごめんなさい。引っ張っちゃって……」

 

 そこでサラが繋いだままの手に気がついたらしく、慌てて手を離す。

 

「別に構わん。それに名も、アルカでよい」

「え、えーと……」

「私もサラと呼んでいいのなら、だがな」

「も、勿論です! あの、その……。アルカさ──」

 

 勢いで"さん"を付けるところだったのだろう。両手で口を抑えている様は、年相応といったところか。

 思わぬ光景にふと笑みがこぼれれば、サラも安心したらしく、表情に笑顔が浮かぶ。

 

「なに、急な事だ。慣れぬのも致し方ない」

「アルカちゃんは、大人っぽいですね」

「ちゃん……。まぁよい、許そう。それで、そう見えるのか?」

「はい、格好いいなって思います」

 

 格好良い、ときたか。これこそ私が求めていた反応だ。

 

「うむ、なにせ──邪神だからな」

「邪神……ですか?」

 

 サラが誇らしげに答える私に、問い返す。

 

「お名前は似てるかなーって思いますけど……。でもアルカちゃんが邪神なら、世界は平和ですね!」

 

 ううむ、何故私が邪神となるとこう、可愛いだとか平和だとかそういった評価になるのだ。

 この世界ではどう伝わってるかは知らぬが、他では悪鬼羅刹のごとく恐れられたのが私だぞ。

 そんな私の苦虫を噛み潰したような顔に気がついたのか、サラが心配そうな顔でこちらを覗き込む。

 

「あ、あの……変なこと言っちゃいました?」

「いや、構わん。構わんぞ……」

 

 頭を振って不満感を振り払い、不安な顔のサラの頭を撫でる。

 

「あれ、無能のアルカじゃねぇか」

 

 そんな平和なひとときを、一つの声が突き破った。

 背後からのその声に、僅かに視線をやれば──

 

「なんだ、猿ではないか」

「誰が猿だ! なんでお前がこんな所に居るんだよ!」

「それはこちらのセリフだな。猿が学舎にいるとは、ここは狩人の育成がなっておらんらしいな」

 

 最後に見た時よりひと回り太ったような声の主は、村でも延々ちょっかいを出してきていた猿だ。

 

「ふん! 俺は侯爵さまに認められて"特別に"学園に入れてもらったんだよ!」

 

 特別に、という言葉に語気を強めて猿が叫ぶ。

 あぁなるほど。ランドルフは私だけでなく、それなりに将来有望なスキルを持った人間を学園に送り込んでいるらしい。

 それもそうか、青田買いは大事だ。うまく育てば私兵にでもするつもりなのだろう。

 

「で、お前はどうなんだよ!」

「答える気にならんな。その場に膝を突き、伏して願うならやぶさかではないが」

「てめぇ!」

 

 隣をみれば、サラが不安そうにこちらを見つめている。見た目通り乱雑な猿の大声に怯えているのだろう。

 

「いちいち喧しいぞ猿。キーキー騒ぐだけなら今すぐ山に戻って猿山の大将を気取るんだな」

「てめぇ……武術の授業でギタギタにしてやるから覚えてろよ!」

 

 近づく式典会場をみて、流石に騒ぎすぎるのもよくないと思ったのか、猿は憎々しげにこちらを睨みながら人ごみの中へ消えていった。

 

 

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