邪神ちゃん 合格す

「はい、合格の通知書。おめでとう」

「当然だな」

 

 数日後、ランドルフの邸宅の元には試験の結果が届けられていた。

 それについて大して思うところはない。当然の結果でしかないからだ。

 

「おや、ちょっとぐらい喜んだりすれば可愛らしいのに」

「可愛い、などと吐き気がするな。私は──」

 

 言いかけて言葉を止める。なにせ此奴に対してはいつも通り振る舞っているものの、邪神であるとは伝えておらんからな。

 はて、このまま言葉を続けたものかどうしたものか。

 そう悩む私をみてランドルフは不思議そうに首を傾げる。

 

「どうかしたのかな?」

「いや、なんでもない。私は邪神だからな。可愛いなどという言葉に興味はない」

 

 迷った末に、言葉を紡ぎ出す。どうせいつまでも隠してはいられないだろう。

 それならば早々に答えを晒してしまった方がマシというものだ。

 

「あっははははは。君が邪神? いやいや、こんな可愛らしい邪神、いや邪神ちゃんがいるなら世の中平和だね」

 

 ランドルフが私のそんな覚悟を吹き飛ばすように、笑い転げる。

 人の正体を侮って笑うとは中々に失礼な奴だ。しかし、今は親子諸共世話になっている身、ここは見逃してやろう。

 それに私の言葉が信じられないという気持ちもわからぬでもない。ここは我慢の一手だ。

 

「君の喋り方は邪神ちゃんだからか。そっかぁ。うんうん。いいよ、そういうとこも可愛いんじゃないかな」

「可愛いという言葉に興味はないと言っておろうが」

 

 どこかしら生暖かい目で見られているような気もするが、追求したところで何にもなるまい。

 それに邪神ちゃんとはなんだ邪神ちゃんとは。

 私は不服げな顔でランドルフを見返すが、彼に遠慮する様子はない。

 しばらくそう、笑い転げている姿を眺めていると、背後から執事が箱をいくつか持ってくる。

 

「あぁ、もう届いたんだ。はい、これ邪神ちゃんの制服ね」

 

 ランドルフが机の脇に積まれるそれを指指す。あぁ、あの学園の生徒らしき者たちが身につけていた服装か。

 それが学園のしきたりだというのならば身につけるのも、やぶさかではない。

 

「……女物ではないか」

 

 だが、私が手前の箱を一つ開ければ、落胆することとなった。

 広げられた制服はあの場で見た女性が付けていたもの。上半身は大差ないものの、下半身はスカートと呼ばれる筒状の布だ。

 

「うん? 何か不服だった?」

「女物ではないか!」

 

 重ねて、声を上げる。いくら肉体が女性のそれだといっても私は男だ!

 何が悲しくて女ものの制服を身に付けなければならんのだ。

 今だって女ものの服はよけて男物の服を身につけているというのに。

 女の制服姿なぞをあのボケ女神にでも見られたら爆笑されるに決まっているではないか。

 

「いや邪神ちゃん女の子なんだから当然でしょ。その格好で男だーって言い張るつもり?」

「私は邪神で男だ!」

 

 私の剣幕に押されたように、ランドルフの表情が変わる。

 だが──

 

「でも邪神ちゃんが女の子なのはお母さんにも確認済みだからねぇ。ま、諦めなよ」

 

 結局私は制服を掴んで呆然としたまま、彼のその言葉を受け入れるしかなかった。

 

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