婚約者から憎まれている公爵令嬢は、何としてでも婚約破棄してもらうつもりです

二枚貝

国王陛下の愛人の娘

第1話 最悪の婚約

 それは誰もが憧れる、夢のように完璧なふたりの結婚であるはずだった。

 若く美しく聡明な王太子と、王国一の美少女とうたわれる公爵令嬢の婚約を、国王が命じた――これが物語ならば、始まる前から「めでたしめでたし」が約束されるような、そんな縁組だった。

 だが実態は、そのようなめでたいものでは、けしてなかった。




「冗談だろう」

 冷静さで知られる王子は美しい顔を顰めて、吐き捨てるように言った。

「陛下は狂われたのか? よりによってあのアーガイルの娘を、この私の妻にしろと?」



「嘘、嘘、嘘!!」

 花のように可憐な令嬢は、髪を振り乱し、声の限りに泣き叫んだ。

「国王陛下は、どれだけわたくしたちを苦しめるおつもりなのですか?!」




 そんな彼らの、幸福の対極にあるような激しい反応を見てさえ、国王の使者は表情ひとつ揺らがせなかった。なぜなら、そんなことはとうに予測できていたからだ。

 彼は手許の書状に視線を落とし、続きを読み上げた。


「王の名の下に、両者の婚約と、すみやかなる婚礼の支度を命じる。

 王太子エディリアス、並びにアーガイル公爵令嬢リュミエーヌは一年ののち、王城グランヴァルドにて婚儀を執り行うものである――」

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