まだまだ分からない
ユメッチに言われた手前、最初のほうこそ急ぎましたがユメッチから見えなくなってくると急ぐのをやめ、普通に歩く。
『……――桜咲さんが困ってないか、見てきてほしいかな』
なんて、大切な幼馴染に言われてしまい、行くしか選択肢が無かったのですが……まぁ、正直……
「流石に帰ってますよね、あの人」
桜咲さんと別れたのは二十分程前。
いくら混んでいても、花火が始まる前と終わった後では混み具合が違います。
あの人ならそのへんのことも分かっているでしょうし、なら尚の事帰っているはずです。
……人ごみとか死ぬほど嫌いでしょ、あの人。
それに何より……感情が高ぶるような事は避けたいでしょうし。
「……」
何となく、唇に触れた。
あの人との間に生まれてしまった不思議な関係。
人には知られたくない秘密の為に、桜咲さんは好きでもない私とキスをしないといけない。
それはほんの少しのお小遣いの為。
それはほんの少しのお節介。
それは少しの人助け。
……その為に私は桜咲さんとキスをしてきた。
キス以上になりかけた事もあった。
でも、私達の関係は変わりませんでした。
多少の気まずさはありましたけど、ただそれだけです。
仲が悪くなるとかそういうのはありません。
何故なら――私と桜咲さんは友達ではないから。
私は少しのお金と秘密の為に桜咲さんと繋がり。
桜咲さんは秘密を守る為に仕方なく私と繋がりを持った。
好意も何もない、ただのお友達ごっこ。
ただ、それだけ……そう……それだけなのです。
「それもあと少しですが……」
ごっこは九月まで。
この夏休みが終われば、桜咲さんと話すことはきっと無くなる。
私としては友達(仮)くらいからなら続けてもいい、そう思い始めているのですが……
「まぁ、ないでしょうね」
いくら私が友達を続けると思っても、桜咲さんが続けないのなら意味はありません。
私はあの人のことが嫌いですが、逆にあの人は私のことが大嫌いでしょうし。
少しだけ歩み寄れても、相手が逃げてしまうならそれはただの他人。
友達にはなれません。
……何を持って友達なのかは分かりませんけど。
「さて、桜咲さんが(恐らく)帰った事も確認(多分)したので、あと五分くらい歩いたらユメッチの場所へと戻りましょう」
そして、また歩き始めます。
花火のせいなのか、提灯に照らされる道に人気はなく、ただ見えない花火の音と賑やかなお祭りの音だけが聞こえます。
でも、その聞こえてくる音はお祭りに向かう時に感じたのとは少し違うように聞こえる気がしました。
何となく、そう……なんだか寂しいような……そんな感じがします。
去年までは夏休みの宿題が終わっていない事への絶望で感じませんでしたが……
「これが夏の終わりってヤツなんでしょうかね」
そんな少しだけ大人になったような感覚に浸りながら歩いていると……少し先の方で――見慣れた金髪が見えました。
「……えぇ……マジですか……帰ってなかったの?」
二段ぐらい飛ばしたはずの大人の階段を下るような気持ちに襲われながら、トボトボ向かいます。
トボトボ歩きながらもどんな風にからかってやろうか、何て事を考えながら彼女のもとへ向かう。
その悪戯心は大人とは程遠い物のハズなのに……桜咲さんを見つけた瞬間のほんの僅かな嬉しさは――何故だかとても大人に近づいた気がしました。
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