少しずつでも……


 花火が打ち上がる。


「見てください!ハートですよ、ハート。あれ、ほら!ユメッチ、ハートですよ!……なんだか、周りをカップルに囲まれていることを考えるとムカついてきましたね」


「あはは……まぁ、ちょっとだけ居づらい、かも。でも、可愛いし綺麗だったよ」


 花火が打ち上がる。


「あっ、刹那ちゃん!今度は星だよ。ほら……」


「あっ、あのカップル、キスしてます!キスですよ、キス!ひゅー、ちゅーですよ……ん?キス……?ん~はて?」


「刹那ちゃん、邪魔しちゃダメだよ」


 花火が打ち上がる。


「あっ……そういえば……」


「どうかしたの?」


「いえ、あの困ったちゃんは無事に帰ったのでしょうか?」


「困ったちゃん…………桜咲さんの事?」


「……ユメッチは桜咲さんの事を困ったちゃんだと思ってるんですね」


「…………ううん、思ってないよ」


「おお……幼馴染の闇を見てしまった気がします……」


 花火が打ち上がる。


「おっと、そうではなくてですね……あっ、またハート。……あの人、ちゃんと一人で帰れたのですかね?駅の方は人がすごいですし」


「……そうだね。今は人でいっぱいかも…………心配?」


「ん~心配かと聞かれると、何とも言えませんが……不安ではありますね」


「?」


「なんと言いますか……人ごみにもみくちゃにされるのはざまぁみろと笑ってやりたいのですが……そうじゃない場合は……とてもまずいので……」


「……心配……うん……」


 花火が打ち上がる。


「……また、ハートですか。もしかして、煽ってるんですかね?私達ソロプレイヤーを」


「うん…………そうだね」


「…………もしかして、刹那ちゃんすべりました?」


「…………」


 花火はまだ、打ち上がる。


「刹那ちゃん……」


「はい、何ですか?」


「……私、先に帰るね」


「んな!?さっきのそんなにやばかったですか!?クソつまらなすぎですか」


「?よくわからないけど……浴衣とか色々片付けて、それでお風呂とか準備しなきゃだし……」


「え?お風呂くらい自分でもいれられるので、もう少しゆっくりしても……」


「……えっと……私も汗すごいからさ、だから……刹那ちゃんの色々をする前にさっぱりしときたいなって……そう、思って……」


「なら、私もいっしょに帰りますよ。ユメッチに迷惑をかける訳ですし」


「……そっか……そっか……じゃ、帰ろっか」


「はい、そうですね」


「あっ、でもその前に一つだけお願いしていいかな?」


「いいですけど、何ですか?」


「刹那ちゃんの話を聞いたらね……私も桜咲さんの事、ちょっとだけ心配になっちゃった。それに、女の子が一人でぎゅうぎゅうの場所に行くって、ちょっと……危ないと思うから……だから、ね」


「……――桜咲さんが困ってないか、見てきてほしいかな」




 花火は……打ち上がる。


 私なんかとは違って、真っ直ぐに夜空めがけて駆け上がる。


 小さな光は大きな音と共に爆発する。


 ぎゅっと詰め込んだ、綺麗な花を咲かせるために。


 一つ、二つ……沢山の花が咲き続ける。


 まだまだ続く花火を無視して、私は駅へと向かう大好きな女の子の後ろ姿を見る。


 転ばないようにしながらも急ぐ彼女の背中を見ながら……


「私ね、刹那ちゃんの事が――」


 花火の音で簡単に消えてしまう、小さな思いを口にした。


 今はまだ届かなくても、いつか……きっと……


 ――花火が打ち上がった。

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