一人の夜空


 姫花刹那と別れ、一人で家路を辿る足取りは徐々に遅くなる。


 交互に動いていた足は、やがて引きずるようになり、そして……


「流石に限界か……」


 痛みに耐え切れず、通路の端にもたれかかるように座り込む。


 慣れない下駄のせいで靴擦れになったらしい。


 ズキズキと痛む。


「……全く、何をしているんだろうな私は」


 顔を上げ、一人で見上げる夜空。


 無数に浮かぶ夜空の星が私を見下ろしている。


「ああ、酷く滑稽だな……」


 もしかしたら、自分が笹山さんを害してしまったのではないか?


 そのせいで二人の中に何か害を与えたのではないか?


 そんな気持ちが芽生え、逃げるように姫花刹那に押し付けた。


 始めて着た浴衣、初めてのお祭り、初めて誰かと一緒の花火。そんな様々な初めてを捨て、惨めに座り込む。


「……もっと……せめて、一言だけでも言葉にすべきだったか」


 浴衣の事、髪型の事、お祭りでやってみたい事、それに……


「……いや、もう……」


 こうして、一人で夜空を眺めても世界は止まらない。


 迷いも不安も色々な事を抱え進もうとした、最後の今日はもう終わる。


 今まで隣にはなかった当たり前が、日常が、もうすぐで終わる。


 ……笑うことも怒ることもせず、ただ一人で気持ちの悪い物だけを抱えて生きる毎日が戻ってくる。


 祖母に借りたこの浴衣も、もう二度と着る事もないだろう。


 だからこそ……彼女に見て欲しかった、褒めて欲しかったんだ。


「……子供みたいだ」


 消え入りそうな自分の声は――直後に打ち上がった花火に消され、自分にすら届かない。


 そして、その花火は木に隠れて上手く見る事が出来ない。


「……見えないな……」


 暗い空の下で私を照らす夜空の花は――空っぽな私を揺らし続ける。


 声も想いも行き場を失い、ただ足の痛みだけが愚かな私を責め立てた。

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