ぷっちんしてる?
放送が入ってから数分、るみあちゃんのお姉さんがやってきました。
お姉さんはるみあちゃんを見るなり、それはそれは大きな声で叱りました。
もちろん、怒られたるみあちゃんは大泣き。それを見た美吹先生が止めるべきか、どうすべきかオロオロしていたのですが……
――お姉さんはるみあちゃんを叱りながら、優しくぎゅっと抱きしめました。
乱暴な口調で怒るのとは裏腹に……その小さな体を守るように……少しの間、抱きしめ続けていました。
「お姉さん、バイバイ」
鼻が赤くなったるみあちゃんはお姉さんの手を握り締めながら、私にお別れの言葉をくれました。
勢いよく振るその小さな手に、私も大きく手を振り返し……
「ええ、バイバイですよ、るみあちゃん」
その言葉と一緒に笑顔で見送ってあげました。
◆
るみあちゃんを見送った少し後、ようやく私のお迎えもやって来ました。
「む、やっと来ましたか」
可愛らしく手を振るユメッチを見つけ、わざわざ呼びつける事になってしまった事を謝ろうとしたのですが……
「あっ、刹那ちゃん、ちょっと止まってて……えと……五秒くらい」
どう謝ろうか限界まで悩んでいた私は、迎えに来てくれた可愛い幼馴染の言葉に困惑。
一体、何故ですか?
そんな当然の質問をしようとして気がつきました。
あの迷子放送で一番ブチ切れてるであろう小娘さんだがいない事に……
「しまっ――」
慌てて後ろを振り向こうとしましたが……既に手遅れ。
「――心配したぞ、桜咲玲奈」
異様に冷静な桜咲さんの声を認識する頃には……
「~~~~~~っ!?」
私の背中に小さなカップのかき氷(シロップなし)を流しこんでいるのでいました。
……桜咲さんがこうしてなにかして来るとは思っていましたが……
「冷た冷たい冷たい冷たい~~」
「あはは、刹那ちゃん、すごい顔になってるよ」
あのユメッチがこの悪事に全力で乗っかっている事が一番の衝撃でした。
背中に入れられた氷はほんの少しでしたので、着替えたりせずに済みました。
まぁ、ユメッチも乗っかっているという事はその片は大丈夫という事でもあるのですが。
「どうだ、少しは反省したか?」
「ごめんね、刹那ちゃん」
ニヤニヤした顔を隠そうともしない奴と申し訳なさと思い出し笑いが混じった顔を見せる幼馴染。
普段であれば、文句を言って暴れ倒すところですが、今回は刹那ちゃんが大人になってあげます。
私にもほんの少しだけ原因があるので。
「いえいえ、ユメッチは気にしないでください。長い付き合いなのですから、これくらいの事はむしろいい思い出です」
「……そっか……うん……そうだね」
ユメッチは、ですけど。
「そうだぞ、笹山さん。気にする必用はない、全くな」
まるで自分も許されて当然、そんな感じで喋りやがるユメッチではない方の少女。
「ユメッチなら全然許しますし、責めるつもりはありませんが、アナタは別ですよおバカ!可愛い刹那ちゃんの背中に何てことをしてくれやがるのですか!プンプンですよ、プッチン!」
「?すまない、もう一度言ってくれ。君が使う知性の低い言語紛いのナニカは、私の素晴らしい頭では理解できないようなんだ。申し訳ない」
そう言いやがりました、悪意百パーセントの煽り顔で。
「プッチィィィーーーン!頭にきましたよ、ええ、完全に」
「何が来たんだ?ボケか?薄毛か?」
「うっしゃいわい!バーカ、バーカ。アナタの方こそ禿げておしまいなさい!」
「ふっ、鼻息を荒くして、どんどん知性を落としていくな。ああ、滑稽で大変にいい気分だ」
ちょびっとだけある申し訳なさのせいで、イマイチ反論出来ない私とそれを楽しむ桜咲さん。
普段であれば、この辺でユメッチが仲裁してくれるのですが……
「…………」
ユメッチは何かを思いつめているようでした。
「ユメッチ?」
いつも、何があっても返事をしてくれるのですが……今回は……
「――ねぇ、刹那ちゃん。刹那ちゃんが言った……長い付き合いって……どういう意味?長く一緒にいるから許したの?ただ……長く一緒にいるだけだから……っ」
「……ユメッチ?」
「…………」
ユメッチの言葉に何か、私の知らない物を感じた。そんな気がします。
「……ごめん、変な事言っちゃった、気にしないで。あっ、刹那ちゃん、桜咲さん、そろそろ花火の時間だよ。そんないつもと同じ事してないで、早く行こ」
そう言って、何かを抱えているのかもしれない、大切な幼馴染はいつもと同じように――私に笑いかけました。
「……あっ、はい。分かりましたですよ」
「ああ、見に行くとしよう……」
桜咲さんは一瞬だけ、私とユメッチの顔を見て……
「――刹那に咲く、夜空の花を……」
そんな訳の分からない事を言っていました。
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