怒って怒って、ギュッとして……


 偶然、受付所でお手伝いをしていた美吹先生に迷子の放送をお願いし、私とるみあちゃんはかき氷を手に仲良くおしゃべりタイムです。


 ここへ来るまでに警戒心が薄くなったのか、るみあちゃんの方から話しかけてくれました。


「えっと……玲奈……お姉さん?」


「おっと、そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね」


 かき氷を食べる手を止め、るみあちゃんの顔を真っ直ぐに見ます。


「ではでは改めて……私は姫花刹那。青い春真っ只中の高校生です。刹那ちゃんでも刹那さんでもお好きにお呼び下さい」


 すぐにでも可愛らしい声で名前を呼ばれると思っていたのですが。


「刹那お姉さん……本当に高校生なの?」


 ……疑いの眼差しと懐疑的な言葉が向けられました。


「いえ、本当に高校生ですよ?確かに平均的に見れば、背は低いほうですが、小学生に疑われるような……」


「――同じクラスのあーちゃんは百六十センチあったよ。それにお姉さんよりももっと……」


「るみあちゃん……たこ焼き食べたくありませんか?」


 これ以上は大切な物を折られそうだったので、食べ物で釣って逃げる事にしました。




 たこ焼きもかき氷も食べ終え、ここからはお迎えが来るまでの本当のおしゃべりタイム。


「……ねぇ、お姉さん」


「ん?何ですか?」


「……おねえ……怒ってるかな?」


「どうでしょうね……私はるみあちゃんのお姉さんではないので分かりません」


 私を迎えに来るであろう人はめっちゃ怒ってそうですけどね。違う意味で。


「ちゃんと……言う事を聞いて、迷子にもならないって、約束で連れて来てもらったのに……迷子になっちゃて……おねえ……怒ってる、かも……」


「っぐぅ……もしかした、ら……すっごい怒ってて……っるみあの事、置いて帰ってるかも……」


 気を張る必要が無くなったせいか、胸の中にあった心配事がどんどん外に出てしまっているようです。


 一人で迷子になって、でも迷子にならないと約束をしたせいで迷子だとは認めたくなくて。そして、約束を破った自分は見捨てられるんじゃないか。


 そんな不安や恐怖がるみあちゃんの中で大きくなっていく。


 助けを求める事も、一人のままでは解決する事も出来ないまま、ずっと不安だった気持ちが……


 まるでどこかの誰かさんみたいに……


「るみあちゃん、はっきり言いますね」


「っぐ……んぇ……なぁに?」


 今にも泣き出してしまいそうなるみあちゃん。


「――あなたのお姉さんはきっと怒ってます」


「っっ~~!」


 おっと、ダムが決壊してしまいそうです。


「えと、そのきっと怒ってるとは思いますが……ですが、その怒っているのと同じだけ心配もしていると思います」


「心配?……おねえが?」


「はい。まぁ、最初は大きな声で怒鳴られたりするかもしれませんが、それはるみあちゃんを心配しているから……きっと怒った後にはるみあちゃんをいっぱいギュッとしてくれます」


「……本当?」


「ええ、本当です……多分……きっと……」


 ……各ご家庭ごとに裁量が違いそうなので、ちょっとだけ不安になりますが。


「ですので、もう少しだけ私と一緒に待ちましょうか。るみあちゃんのお姉さんを」


「――うん」


 ようやく、るみあちゃんの笑顔を見る事が出来ました。


 ◆


「えっと……桜咲さん……その……早く、刹那ちゃんの所に……」


「ああ、分かっている」


「……えと……今、何してるの?」


「――あのバカに投げつける物を探している」


「……あはは……そっか………………私も一緒に探してもいいかな?」

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