導火線
微妙に可愛くないデザインの貯金箱。不気味な体を逆さにして、蓋を外した。
小銭とお札が落っこちる。
小銭の方は自前の貯金で、お札の方は桜咲さんからのお金です。
「これはこれは……」
枚数を数えてみると、結構な額がありました。
私のお小遣い三ヶ月分くらいでしょうか。私にとっては結構な大金。
その額を噛み締めると共に、僅かに現れる罪悪感。本人が言い出したとは言え、同級生からこの額を貰っているのは駄目な気がするようなしないような。
天使と悪魔。
白と黒の間でゆらゆら揺れる。
「……まぁ、私も体を張っているのでセーフです。セーフ」
罪悪感から逃げるように、自分を納得させて、可愛くない貯金箱にお金を戻します。
再び重くなった貯金箱を手に立ちがる。
すると、明日花火大会に着ていく予定の浴衣が目に入りました。
ユメッチが買った、私の趣味や嗜好は反映されていない、とても可愛らしいデザイン。
何といいいますか、とてもキャピキャピしています。陽キャオーラとも言いますか。私にはあまり馴染みのない感じです。
基本的に花火大会では、色々な屋台を素早く見て回れるように半袖半ズボンの少年スタイル。流石に可愛らしい物を来てはいましたが、浴衣を着た事は殆どありません。
精々、ユメッチが着ているのを褒めるくらいでした。
そんな色々な記憶を掘り起こしながらじっと、浴衣を見つめる。
「……桜咲さん……浴衣着てくるんでしょうか……」
既読の文字が表示されたスマートフォン。
「……」
見つめても浴衣が私に何かを言ってくれるわけではない。
着るか、着ないか。自分で決めるしかありません。
「……もし、浴衣を着ていって、そしたら――」
一秒、一秒を刻む針の音。
カチッ、カチッ
「――そしたら、桜咲さんは私に何と言ってくれるんでしょうか」
むず痒い気持ちは、もやもやしたまま――私を迷わせます。
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