ご機嫌いかがかしら?


 うだるような暑さに耐え切れず、本日四個目のアイス。


 ……こんなに食べていると、お腹を冷やしてしまいますが暑いので仕方ありません。


「も~刹那ちゃん、またアイスばっかり食べて。お腹冷えちゃうよ」


 ポチポチテレビのリモコンを触っていたら、お母さんのような事を言いながらユメッチがやってきました。


「問題ありません。このあと熱々のピザが来る予定なので」


 ユメッチには合鍵を渡しているのでこんな感じで普通に入ってこれるんです。勿論、私もユメッチの家の合鍵を持っています。


 ……基本的に私の家で家事をやってくれているので、私がユメッチの家の行く機会はほとんどないんですけど。


「そういう事じゃ……もう、お腹痛くなっても知らないからね」


 プイッ、とユメッチは不機嫌そうにキッチンへと行ってしまう。


 最近、何故だかあまり機嫌が良くないユメッチ。


 家に来ても終始ムスッとした顔をしています。


 一体何故なのか?


「……ユメッチに何か嫌なことしちゃいましたかね?」


 考えても分からないので聞くしかありません。


「別に……何もしてないよ」


「なら、どうしてそんなにプンプンしてるんですか?何か原因があるなら直すので教えてください」


 長いこと付き合っていれば喧嘩することだって、当然あります。ですが、理由もないま、関係が悪くなってしまうのは避けたい。


「――何も……出来ないから……」


 ユメッチは何かつぶやいたみたいですが、小さくてよく聞こえない。


「すみません、もっと大きな声で言ってください」


「何でもないよ!」


 今度はとても大きな声で言われてしまった。


 普段、あまり聞くことはないユメッチの大きな声に驚いてしまう。


 ……どうやらかなりご機嫌がよろしくないみたいですね。


 何とかしないと。


「あーえっと……外で何か食べます?」


「……今日はもう夕御飯の準備してあるから」


「なら、プール行きましょ。プール」


「今日は、人の多いところに行きたくないかも」


「あーなら……お買い物はどうです?サマーなコーデ決めちゃいますか?」


「お金……ないから……」


「そうですか」


 なんとかしようと放った物は全て撃沈。


 何も変わらないまま、食べかけのアイスが溶けていく。


 時間は過ぎるが、私の頭には何もいい案が浮かんでこない。


「……えーっと……」


 これが桜咲さんであれば、何も考えずに適当な事を言えるのですが……困りました。


 ……仕方ありません。


 ここは最後の手段です。


「はぁ……一つだけ何でも聞いてあげます。ですから、いつものユメッチに戻れませんか?」


 最悪、お小遣いを全て使い果たすことになる覚悟で言った、私の言葉にユメッチは……


「っ!?……なら……それ……なら……――一緒にお風呂に入って!」


 やけに興奮した様子でそう言いました。


 何故にお風呂?


「え?いいですけど……?……いいんですか、そんな事で?」


 もっとお金を使ったりとかでなくていいんでしょうか?


「うん!いい!いいよ!全部、許しちゃうよ!全部!」


「あ、はい、分かりました」


 さっきまでの影のような雰囲気から一転、ユメッチはとてもイキイキしていた。


 ……本当になんで?


 困惑する私を置いて、ユメッチは嬉しそうにお風呂の準備を始めました。

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