実質デートでは? 前


「お願いです!十万円ください!」


 お昼休み。


 ユメッチが飲み物を買いに行くのを見計らい、桜咲さくらさきさんに土下座する。


 熱い地面の上での土下座です。


「……そう頼まれて、素直に渡す訳無いだろ。あと、知人が土下座するのを見ると悲しくなる。やめてくれ」


 その割には嬉しそうに見下ろしている。


「そこを何とかお願いします!お金くらいしか、人に自慢できる物がないあなたにしか頼めないんです。あと、あなたなら最悪お金でトラブルになっても、心が痛まないのでお願いします」


「それはもしかして素でやっているのか?素で失礼なのか、君は?」


 呆れ、嫌悪、失望、色々な感情を混ぜ合わせた複雑な表情の桜咲さん。


 レアなので、写真をパシャリ。


「写真を撮るな。……一応、聞くだけ聞いてやるが……何故、十万円が欲しいんだ?」


「……それは……その……」


 立ち上がり、説明しようとするが、桜咲さんに伝えてもいいものかという迷いが邪魔をする。


「……深刻な理由なのか?」


 桜咲さんは私の暗い顔を見て、真剣な表情で聞いてきた。


「……はい。一刻を争う非常事態なんです」


 もう、時間がない……このままでは間に合わないかもしれない。


「……そうか……まだ、渡すと決めたわけじゃないが、理由を話してみてくれ。現金を渡すだけで……その……き……き、君を助けられるなら……協力しない事もない」


 何故か顔を真っ赤にする桜咲さん。


 顔が赤くなるほど、暑いとは思いませんが。


「――本当ですか?」


「ああ、内容によってはもっと渡してもいい。だから、話してみてくれないか?」


 優しく微笑む桜咲さんの顔を見て、思わず涙がにじむ。


「泣いていないで、早く説明してくれ」


 口調はいつもと変わらない。だけれど、その声色は優しかった。


「はい……分かりました。実は――」


 もしかしたら、迷惑かも知れない。ちょびっとだけ思ったその心を放り投げ、口に出す。


「――推しキャラのピックアップがもう少しで終わりそうでして。しかもそのゲーム天井がないので、全然引けなくてですね――あっ、ちょっと!?何処へ行くのですか!?お待ちなさいな!」


「馬鹿の話を真面目に受け取った私が愚かだった。いいから早く、教室に戻れ」


 桜咲さんはそのまま立ち去ろうとする


 まずい、このまま桜咲さんからお金をもらえないと、ピックアップが終わってしまう。


 何とかしなければ……


 考えるのです、私!


 彼女から課金代を貰うために――


「雑用でも、何でもしますから!だから――十万円くださーーーい!!」


 プライドも何もかも捨てた、その叫びは……しっかりと桜咲さんに届き。


「――そうか……本当に何でもするんだな?」


 足早に私の元へと引き返すと――怪しい笑みを浮かべているのでした。


 ……もしかして、やらかしましかね?


「日曜の昼、駅に来てくれ。ああ、時間厳守で頼む」


 そう伝えると、悪役みたいな笑い方をしながら立ち去る桜咲さん。


 そして彼女と入れ違いにユメッチが購買から戻ってきました。


「刹那ちゃん。カフェラテ、買ってきたよ!あと、桜咲さんの分も一緒に――あれ?桜咲さんは?」


 ユメッチはキョロキョロと辺りを見回す。


「……先に教室に戻りました。はぁ……失言、だったかもしれません」


「え?何が?」


「何でもないですよ」


 ユメッチにそう返し、その場にしゃがみこむ。


 十万円。


 アルバイトもしていない私からすれば物凄い大金。


 推しキャラの為とはいえ、いくらなんでもまずかったかもしれない。


 取引で一日、五千円貰っていますので、それの前借りという形にした方がよかったかもしれない。


「……社会的にリスクがあるような事はされませんよね?流石に……」


 暑さとは別の理由から来る、大量の汗。


 雲一つない、青く暑い空の下。


 私の胸は不安でいっぱいになった。

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