ひみつ
「えっと……二人共、何かあった?」
戻ってきた
「何でもないですよ!掃除も終わったので、私達はこれで帰りますね」
変に勘繰られる前に立ち去るべきですね。
「あっ、うん、さようなら。気をつけて帰ってね」
「さようなら」と手を振り、桜咲さんの手を引っ張り教室を出て行く私を、美吹先生は不思議そうに見ていた。
「……あの二人……一緒に帰るようになったのかな?」
◇
学校を出て、私達は人気のない、静かな公園に来ていた。
ユメッチに遅くなると連絡する。
ユメッチからのわかったよ、との返事を確認し、スマホの電源を落とした。
「……さて、あなたの体の事について聞かせてもらってもいいですか?」
「……ああ、わかった。話せる限りは話すさ」
まだ、火照った顔の桜咲さんはあの猫耳が生えてしまう理由について話してくれました。
「――つまり、あのお耳は、神様の一部、って事ですか?」
「母から聞いた話を、全て信じるならそうなるな。信じられるような話ではないが……」
「……ほえ~これはまた珍妙な……」
不思議な体質という言葉で片付けるには、変わりすぎていると思っていましたが。まさか神様とかそんな案件だとは……
ちょっとお金の匂いがします。
「――猫耳系美少女動画配信者とか、やってみませんか?」
もしかしたら思わぬ逸材では?なんて、邪な考えが思い浮かぶ。
「やらない。仮にやっても、気味悪がられるだけだ」
あっさり断られ、撃沈。
分かってましたけどね。
「むぅ、そうでしょうか?あなた、顔はとても可愛いので、意外と受けるかもしれましれませんよ?」
そもそも本当に猫耳が生えているだなんて、だれも思わないでしょうし。
いつものように、適当な会話をしてみるも、重い空気は変わらない。
空気は重く、時間だけが流れていく。
「……いいのか?耳や尻尾が生えるような、気持ちの悪い女と話して……」
「そうですか?私は可愛いと思いまけど。あっ、容姿がですよ、容姿が。中身は全く可愛くないと思います。ええ」
膝を抱え、ベンチに座る桜咲さん。
学校を出てから、彼女は一度も私の顔を見ようとしない。
恥ずかしさからか、嫌悪感からか。
縮まったとは言えい。知り合ったばかりの私達の距離は、より離れてしまっている。
彼女と気まずくなろうと、別に気にしませんが……
でも……
「……あんな、気持ちの悪い……変態みたいな事までしたのに……それでも……可愛いなんて言えるのか?君は」
桜咲さんの声は震えていた。
どうやらよほどのダメージを負っている様子。
……仕方ありませんよね。あんな事をしてしまったら。
指で触れた唇にはまだ、彼女の柔らかさが残っている。
「ええ、言えますよ。やった事はどうあれ――あなたはとても可愛いんですから。……それに、そうならない為に、私と取引をしたんですよね?」
優しく桜咲さんの手を取り、しっかりと握る。
「――なら、私は何があっても、あなたに対して気持ち悪いなんて、思ったりしません」
彼女の頭をそっと撫でる。
金色の透き通るような綺麗な髪。
そんな金色の美しい場所に混じる、ぺったんとなった猫耳。
恐る恐る触れてみると、もふもふで暖かくて……ソレがしっかりと血の通った彼女の一部であることを感じさせてくる。
しかし、人気がないとは言え、このままでは誰に見られるか分かりません。
早く、消してしまうべきでしょう。
「……ほら、顔を上げてください」
私に促され、顔を上げた彼女にキスをする。
「っ!?」
唇が重なり、シュンとしていた猫耳が消えた。
目を見開き、びっくりしている桜咲さんの事は特に気にせず、そのまま何事も無かったみたいに顔を離した。
心臓がうるさいですが、きっと不整脈です。
「ん……この程度のキスであれば、何度でもしてあげますよ……流石に、舌を入れられるレベルは遠慮しますが……ですから……そんな落ち込まないで、いつもみたいに性格の悪い嫌味なあなたでいてください。やりづらくて仕方がないですから」
こんな事を言っておきながら、私はまだ、彼女の事を好きになれていない。
「また尻尾が生えたら困りますから、キスで済むならば安いものです」
偉そうだし、嫌味を言ってくるし、何より性格が可愛くない。
はっきり言って、嫌いと言ってもいい。
好きではなくても、彼女のことが気に入らなくても……このまま、ひとりぼっちのままにしておくのは可愛そうだと思った。
きっと誰にも知られたくなかっただろうし、誰にも助けて欲しくなかったと思う。でも、私は知ってしまった。
彼女が誰にも知って欲しくなかった、彼女の秘密を……
――
私だけが知っている、彼女の秘密。
その言葉は何故か、私の心を熱くする。
ソレが何故なのかは、良くわからない。
でも、不快な感じではない。それだけは何となく分かる。
「さて、仮のお友達ごっこですが、改めて――
まだ、ちゃんとはしていなかった自己紹介を――真っ赤な顔の彼女にするのでした。
そして、彼女の固まってしまった手を――特に何も考えずに、何となく握ってみた。
私と同じくらいの小さな手は――可愛らしくて、とても暖かい。
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