おみみ


 名前も知らない遠い祖先は願った。


 自らに富をくれ。


 そう、神様に願い事をし、対価として自らの子孫の肉体に、神様が宿ることを受け入れた。


 父の元へと嫁いできた母からその事を聞かされたときは、ふざけた胡散臭い昔話。


 そう思っていた。


 自身の頭に生えたソレを見るまでは……



 

 ベッドに倒れ、唇に触れてみる。


「……初めて……してしまった……」


 キスをすれば、猫耳は消える。


 今までも、キスをして消してきた。


 でも、それは母とする家族のスキンシップのようなもので……他人とするのはコレが初めて。


「ッーーーー~~~~~~!!」


 冷静になろうとすれば、するほど、頭の中はより熱くなる。


 バタバタとベッドの上でもがく。


 電車の中で、冷やしたはずの頭は、まだ熱を持ったままだった。


「くそ!最悪だ!」


 姫花刹那ひめはなせつな


 彼女と、一見対等に見える関係を築いた後に、弱みを握り、私の体質について絶対に漏れない環境を作るつもりだったのに……


「まさか、即落ちとは……」


 今は消えた猫耳に憎悪の念を送る。


 この耳が現れる条件は、何となくでしか把握できていない。


 私の感情の動き。


 それも――嬉しさや興奮によるものということしか分かっていない。


 詳しく、何をすると出てくるのかが分からない。


 好意的に思っている相手に対しては出やすいので、母と離れるため、祖母の家に引っ越してきて、転校までした。


「――これでは、なんの為に家を出たんだ」


 自分が思っている以上に、この体はちょろいらしい。


 確かに、今日、初めて教室に入った瞬間、私の目に入ったのは彼女の姿だった。


 私とあまり変わらない体型と可愛らしい顔。


 この体質と人付き合いを面倒だと思っていなければ、友人になって欲しいと思える少女だった。


 この体質さえなければ、だが……


 そんな彼女と仮とはいえ、友人関係になれる、それだけで興奮したのか。、私は……


「……このままでは、些細なことで尻尾まで生えてしまうんじゃないか?」


 そうなってしまったら最悪だ。


 祖母の話では、ソコまで至ると、理性は薄くなり、欲だけを求めて行動するらしい。


 そして、その状態を元に戻すには……


「……もし、尻尾が生えたら死んだ方がマシだな……」


 ――とにかく、そうならないことを祈りながら、私は寝ることにした。

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