ひとりごと


 赤く、鈍い痛みが広がる頬を押さえながら、電車に揺られる。


 規則的に訪れる振動は、何処か心地良く、まるで揺りかごのように眠りを誘ってくる。


「……少し……無理矢理すぎたな」


 すっかり暗くなった、窓の外を見ながら呟いた。


 まさか、人と久しぶりに約束をしただけで、出てくるとは……もっと気をつけなければ。


「それと――戻す方法も……」


 ゆっくりと唇に触れる。


 指で触れる柔らかい唇に残るのは――今日、初めて会話した少女の熱。


 自分の唇を指でなぞり、思い出す。


 ――焦りのあまりしてしまった最悪な行為を……


「っーーーー~~~~~!?」


 ただそれだけで、死にたくなり、頭を抱えて悶え苦しむ。


 穴があったら入りたいとはこういう事か……


 しっかりと説明をした上で、確認を取り、了承を得た上ですべきだったんだ。絶対にそうだ。そうに決まっている。


 わしゃわしゃわしゃと頭をかきむしる。


 私の頭に残るのは後悔と羞恥と嫌悪と――……


「明日……どんな顔で挨拶をすればいいんだ……」


 ――初めて感じた小さな熱が、私の頭と顔をじんわりと熱くしている。



 電車は揺れ、私を降りるべき場所まで送り届ける。


 頬に感じるこの熱はきっと……――ぶたれた痛みのせいに違いない。


 そう思い、自らを落ち着かせる。


 だが、暗い窓に写る私の顔は――何故か、夕日のように赤くなっている気がした。

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